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教養・歴史 書評

国会図書館へ電子出版物も納本=永江朗

 小さな出版社の社長から、新型コロナウイルス禍で国立国会図書館(NDL)の利用が制限されて困ったという話を聞いた。NDLの東京本館(東京都千代田区)は入館者数を1000人程度に抑えるため、抽選予約制を導入している。社長はある作家の書籍未収録作品を集めた本を制作中なのだが、作品を所蔵資料から発掘するためNDLに通っている。

 NDLには国内で刊行されたあらゆる書籍や雑誌が所蔵されている。それが可能なのは、出版物を発行したときは発行の日から30日以内に1部をNDLに納入しなければならないと国立国会図書館法で定めているからだ。先の出版社社長は、「東京に出版社が集中している理由の一つは、NDLがあるから」という。

 もっとも、「あらゆる書籍や雑誌」と書いたが、電子書籍や電子雑誌など電子出版物は含まれていない。国立国会図書館法ができたのは1948年で、電子出版物は想定されていなかった。その後、インターネットの時代になり、まずは国や地方公共団体、独立行政法人などのオンライン資料が収集の対象となった。しかし、一般の出版社が刊行する電子出版物はまだ含まれていなかった。

 それがようやく納本の対象となることになった。NDLの納本のありかたについて議論する納本制度審議会が3月25日、NDL館長に対して一般の電子出版物も収集対象にするよう答申したからである。実は電子書籍の収集について館長から審議会に諮問がなされたのは2011年9月。10年近く前である。それから議論や関係者へのヒアリングを重ね、4年あまりにわたって実証実験も行った。その結果としての今回の答申である。

 なぜこんなに時間がかかったのか、という声も聞く。一番の理由は、出版社や著作者がコンテンツの漏出を危惧しており、そうした不安を払拭(ふっしょく)するため慎重に制度を構築しようとしたからだろう。納本制度には応じなかった場合の罰則規定(過料)もあるが、基本は出版者との信頼関係で成り立っている。出版の世界は紙から電子へと猛スピードで変わりつつある。ようやくNDLが状況に追いつく。


 この欄は「海外出版事情」と隔週で掲載します。

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