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サッカー「欧州スーパーリーグ構想」をビッグクラブの「身勝手」と片付けられないワケ=酒井浩之

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    「欧州スーパーリーグ構想」 強豪クラブのやむにやまれぬ事情=酒井浩之

     サッカー・スペインリーグのレアル・マドリードなど欧州の強豪12クラブが4月、「欧州スーパーリーグ」(ESL)構想を突然打ち出した。その後、欧州サッカー連盟(UEFA)の批判などを受ける形で、すでに9クラブが脱退を表明。構想は事実上、頓挫した状態にあるが、クラブ側が身を投げ打ってまでして提起した欧州サッカー界の抱える問題は根が深い。

     ESL構想には当初、レアル・マドリードのほかバルセロナ(スペイン)やユベントス(イタリア)、チェルシー(イングランド)など世界に名だたる強豪が参加を表明。初代チェアマンにはレアル・マドリードのフロレンティーノ・ペレス会長が就き、UEFAが主催する欧州チャンピオンズリーグ(CL)に代わって欧州20チームによるリーグ戦を展開するとぶち上げた。

     これに激しく反発したのがUEFAで、「私利私欲による皮肉なプロジェクト」などとして批判。ESLに参加するクラブや選手に対し、国際サッカー連盟(FIFA)やUEFA、各国リーグ主催の大会への出場を禁止する方針を示した。英国のジョンソン首相なども構想に対して懸念を表明し、チェルシーやリバプール(イングランド)、インテル(イタリア)など9クラブが次々に離脱した。

     結局、5月31日時点でESLに参加する意向を示し続けているのは、レアル・マドリードとバルセロナ、ユベントスの3クラブのみ。UEFAは離脱した各クラブに対し、育成や草の根活動に合計1500万ユーロ(約20億円)を寄付するなどとした事実上の制裁を科しており、残る3クラブに対してはUEFA主催大会への2年間の出場停止などさらに厳しい処分が検討されている模様だ。

    FIFA汚職で不信感

     表面的にはすでに勝負はついたかのように見えるが、なぜ世界に名だたるクラブがUEFAに反旗を翻してまでこうした構想を表明するに至ったのか。直接的なきっかけは、新型コロナウイルス禍による収入の大幅減だろう。「世界最高峰」といわれる欧州トップクラブでも年間の売上高は約1000億円前後であり、利益の水準はクラブにもよるがほぼゼロ円というクラブもあるほどだ。

     久保建英選手が2019年に移籍したことでも話題にあがるレアル・マドリードの売上高は、コロナ前の19年6月期で7億5730万ユーロ(約1000億円)だが、このうち180億円前後が年間の総チケット収入だ。また、税引き後利益は3840万ユーロ(約50億円)であり、売上高に対する比率は5%程度でしかない。コロナによってチケット収入が丸ごと失われてしまうことの経営的なインパクトは大きい。選手への給与支払いや設備維持費などにコストがかかる中、クラブ側には解決策が見えないことへのストレスが相当にたまっていると考えられる。

     ただ、コロナ禍は直接的な引き金にしかすぎず、クラブ側はもともとUEFAやFIFAによる大会運営に不信感を抱いていたと思われる。その一つがクラブへの分配金の少なさであり、今回のESL構想でも実際、米金融大手JPモルガンをスポンサーに、参加クラブへ総額100億ユーロ(約1兆3000億円)を分配すると表明。CLでクラブ側に支払われる総額約20億ユーロ(約2600億円)から大幅に増額する計画だった。

     大会運営や分配金の決め方などに強大な権限を持つUEFAやFIFAだが、クラブ側の不信感を決定的にしたのが、15年に表面化した汚職事件だ。南米で開催された大会を巡り業者から賄賂を受け取ったとして、米司法当局がFIFAや傘下の組織の幹部らを訴追したほか、その過程ではFIFAのブラッター会長(当時)がFIFA副会長だったプラティニUEFA会長(同)へ報酬を不正に払ったことも明るみに出た。

    ちらつくカタールの影

     さらに、22年のW杯カタール大会招致を巡っても、FIFAは17年6月に公表した報告書で、カタールの王族を巻き込んだ派手な招致活動が展開されていたことを明らかにしている。 カタールとFIFA、UEFAの密接な関係は、今回のESL構想を巡る騒動からも垣間見ることができる。

     ESL構想には、フランスリーグの強豪パリ・サンジェルマン(PSG)やドイツのバイエルン・ミュンヘンは参加しなかった。PSGの会長はカタール出身のナセル・アル・ヘライフィー氏で、UEFA評議員を務めている。また、バイエルンについてはカタール航空からスポンサーという形で支援されている。現地の報道によれば、カタールが22年にW杯開催を控える中で、FIFAやUEFAに対抗する側に加わることは現実的ではないと判断したとの見方が示されている。

     ピッチ上での出来事も追い打ちをかけた。バイエルンのFWレバンドフスキ選手が3月、ポーランド代表として臨んだW杯欧州予選で全治4週間のケガを負い、4月に開催されたCL準々決勝の対PSG戦に欠場を余儀なくされた。これについて、マンチェスター・シティー(イングランド)のグアルディオラ監督が4月の記者会見で問題提起したのだ。

     エースを欠いたバイエルンはPSG戦に敗れ、準決勝進出で手に入る予定だった約1200万ユーロ、決勝進出で手に入る1500万ユーロ(優勝賞金は別途加算)など多額の分配金を失った。グアルディオラ監督の言葉には、FIFA主催の大会でケガをし、UEFAの大会で賞金を失っても、選手の年俸を負担するクラブ側に何の補償もないことへの不満が込められていた。こうした思いは大半のクラブが抱いているだろう。

     UEFAはESL構想の発表後、24/25年シーズンから適用するCLの新たな大会方式を発表し、出場クラブ数を現行の32から36へ増やすとした。強豪クラブには各国リーグ戦に加え、欧州をまたいで戦うCL出場の負担がさらに増すことになる。だが、グアルディオラ監督の問題提起について、FIFAやUEFAに検討するフシは見られない。

     UEFAを巡っては5月25日、ESL構想に参加し続ける3クラブに対して懲戒手続きを始めたと報じられた。最長2年間のCL出場禁止処分も検討されているという。その一方、5月21日にはUEFA主導で欧州サッカーの将来についての会議を立ち上げるとも発表しており、クラブ側の不信や不満を受け止めているようでもある。

     今回のESL構想は、UEFAが批判するように、クラブ側が金に目がくらんだがゆえの行動と単に片づけることはできない。何らかの形で3クラブに処分が科され、今夏から例年同様の新シーズンが始まるとしても、FIFAやUEFAが運営のあり方を抜本的に見直さない限り、クラブ側に不信や不満が今後も渦巻き続けるだろう。

    (酒井浩之・Hiro Sakai代表取締役)

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