投資・運用投資の達人に聞く アフターコロナの資産形成術

投資の達人に聞く①鎌倉投信(上)「300年続く良い会社を100年応援する」究極の社会貢献ファンド

鎌倉投信の鎌田恭幸社長は、「社会課題を解決する良い会社を応援する」と語る
鎌倉投信の鎌田恭幸社長は、「社会課題を解決する良い会社を応援する」と語る

 鎌倉投信は上場会社に投資する公募投信「結い 2101」と非上場企業に投資する投資事業組合「創発の莟(つぼみ)」を運用する投資信託会社だ。社名どおり、神奈川県鎌倉市、鶴岡八幡宮から徒歩8分ほどの閑静な住宅街に本社がある。運用会社と言えば、東京・大手町や八重洲のビジネス街にオフィスを構え、ファンドマネージャーが金融端末の前で、慌ただしく株式を売り買いするイメージが一般的だろう。だが、築90年の日本家屋が本社の鎌倉投信は、そうした喧騒とは無縁だ。初夏の取材中、時折、日本庭園に目をやりながら、耳を澄ますと、鴬の鳴き声が聞こえてくる。

なぜ、鎌倉なのか

 なぜ、鎌倉なのか。2008年11月の創業メンバーでもある鎌田恭幸社長は、「自分たちの立ち位置を明確に示したかった」と説明する。「鎌倉は自然や伝統文化がある一方で、日本で初めて武家社会が誕生し、環境保護運動が生まれ育った場所。古くからあるものを大切にしながら、新しいものに取り組む。そうした土地で、日本の良さを感じながら、色んな人とつながりや広がりを生んでいく。そんな金融事業を目指していきたい」(鎌田社長)。

 鎌倉投信の特徴は、大きく三つある。

 まず、①運用成績だけを至上命題とせず、超長期目線で、日本の社会課題を解決する「いい会社」を発掘・育成することを目標としていること――だ。

鎌倉市にある鎌倉投信の本社は、築90年の日本家屋だ
鎌倉市にある鎌倉投信の本社は、築90年の日本家屋だ

100年投資し続ける

 鎌倉投信には、「300年続く会社に100年投資する」という壮大な構想がある。「投資先が『いい会社』であり続ける限りは、銘柄入れ替えをせず、持ち切る」ことが他の運用会社との決定的な違いという。

 その目標を達成するには投資家に長期保有してもらう必要がある。そのために、②運用利回りの目標は年4%(信託報酬控除後)と控えめにする一方、価格変動リスクは年10%以内に抑える商品設計をしている、さらに、③販売は直販のみとし、鎌倉投信、投資家(受益者)、投資先企業の3者が連携を深める様々な場やイベントを提供している――のが、既存の投資信託との際立った違いだ。

株価より大事なのは「会社の性格」

 現在の投資先企業は株式で62社、社債で6社だ。それでは、「いい会社」はどのように選ぶのだろうか。同社の五十嵐和人・資産運用部長は、「社会価値、個性価値、持続的価値」の三つの価値基準を挙げる。社会価値というのは、本業を通じて社会的な課題を解決していく会社であることだ。個性価値は、その「会社の性格」で、①人、②共生、③匠の三つのテーマからなる。持続的価値は、長期にわたり、持続的に会社を経営する力と財務力を示す。

 特に、最初に見るのは、収益性や株価の水準より、個性価値、つまり「会社の性格」なのだという。

 個性価値では3テーマ、35の評価項目があるが、ESG(環境・社会・企業統治)投資のような総合評価とは違い、それぞれの個性が突出していれば認める。通信簿に例えれば、「5点満点でなくても、体育や音楽が図抜けていればよい」(鎌田社長)といった具合だ。

資産運用部長の五十嵐和人さんは、収益性や株価よりも、まず、「会社の性格」を見ると話す
資産運用部長の五十嵐和人さんは、収益性や株価よりも、まず、「会社の性格」を見ると話す

少子化解消に貢献のブライダル会社

 それでは実際に、公募投信「結い 2101」の投資先を見てみよう。

 まず、九州に地盤のあるゲストハウス型の挙式・披露宴の運営会社アイ・ケイ・ケイ。「人」の項目の中の「企業文化」で評価された。「幸せな結婚を増やし、少子高齢化を解決する」という企業理念が経営陣から従業員まで浸透している。社員は、会社の理念や信条を書いた「クレド」という冊子を持ち歩いているが、毎年の改定に社員が関わり、自分事としている。この結果、少子化が進む中でも、安定した業績を出している。

「共生」で高い評価を得たのが、アウトドア用品のスノーピークだ。本社がある新潟県の燕三条は金物の町で、スノーピークは、燕三条の鍛冶技術を後世に伝えていく製品として、どんな硬い地面でも固定できるテントの金属杭や、チタン深堀技術を使った食器を製造販売している。地域とともに成長していく点が評価された。

世界シェア3割の歯科器具メーカー

「匠」は、モノづくりで非常な優位性を発揮している会社だ。歯科用のドリルを取り付ける持ち手「ハンドピース」を製作する栃木県のナカニシは、毎秒4万~45万回転を実現する超高速回転技術を誇り、世界シェア3割を超える。口の中に入れるため、素材から非常にこだわり、「美術品のような仕上がり」(五十嵐氏)にも感銘を受けたという。

「結い 2101」では、五十嵐氏と、30代の2名の計3名のファンドマネージャーが、既存投資先を訪問したり、新規投資先を発掘したりしている。昨年の訪問回数は、コロナにもかかわらず計約600回に上った。

 新規に企業を開拓する際は、インターネットや書籍で情報を得て、面白そうであれば、実際に出向いて取材する。鎌倉投信は、経営や組織論などを教える大学の教授との付き合いも多く、そうしたところからも、「ここは鎌倉投信に向いているのでは」と紹介されることも少なくない。また、投資先企業の経営者からも、「ここの社長のこの取り組みは素晴らしい」と口コミで教えられることもよくあるという。

現金比率は4割と高く

 上述のように、「結い 2101」は、投資家が長期保有できるようにするために、極端な価格変動は避ける商品設計にした。高い運用利回りが見込めても、価格の下落が大きければ、個人投資家は怖くなって、ファンドを売却してしまう可能性があるためだ。そのため、価格変動リスクがゼロの現金を4割と、アクティブ運用の投信としては多めに保有している。現金があれば、株価の下落局面で、株式をより多く購入できるほか、投資家の換金にいつでも応じることができるメリットもある。

鎌倉投信の日本庭園からは鴬の鳴き声が聞こえてくる
鎌倉投信の日本庭園からは鴬の鳴き声が聞こえてくる

地域と社歴でも分散投資

 ポートフォリオでは、三つの観点から、分散投資を心掛けている。一つ目は、一社当たりの組み入れ比率を1・1%、金額で4億円を上限としていること。株式は持ち切りが前提だが、値上がりでこの割合を超えた場合は、その分を売却し、値下がりの場合は、その割合まで買い増す。また、投資先企業を、東京、長野、新潟、香川、愛媛、沖縄などと地域で分散させる。さらに、創業間もない企業から、創業400年超の養命酒までと社歴でも分散させている。

リスク抑制でも、利回りは年率7%

 この結果、昨年1~3月はコロナショックによる株式市場の暴落にもかかわらず、「結い 2101」の下落率は10%と、設計通りに抑えられた。

 2010年3月の設定以来で見ると、運用利回りは年率換算で6・8%と、目標の4%を上回っている、一方で、価格変動リスクは年率で9・5%と設計通りだ。

 ファンドの社会的な性格に加え、安定運用が個人投資家に好感され、足元の純資産残高は500億円弱、投資家数も2万1000人強と、社会貢献を重視したアクティブ投信の中では、順調に規模を拡大している。毎月積み立てを選択している投資家の割合も、1万1000人強と半数を占めていることも、純資産の安定的な増加に寄与している。(稲留正英・編集部)

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 新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、経済・社会のデジタル化が急速に進んでいます。同時に、気候変動の脅威を受け、脱炭素化も急速に進んでいます。株式市場ではその流れを先取りし、次世代の経済を担う企業を物色する動きが強まっており、そうした企業群をいち早く「発見」し、「応援」するアクティブ運用の投資信託が改めて見直されています。

 連載「投資の達人に聞く アフターコロナの資産形成術」では、経済の先行きを読む力や企業の目利き力に優れた有力投資信託の運用責任者、ファンドマネージャーに、その運用哲学・方針・手法や、相場の見通しなどを聞いていきます。

(②鎌倉投信(中)に続く)

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