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変異株に苦慮、外出制限緩和を4週間延期した英国=黒木亮

ロンドン中心部レスタースクエアの芝生で憩う人々 筆者撮影
ロンドン中心部レスタースクエアの芝生で憩う人々 筆者撮影

ロックダウン緩和を4週間延期 変異ウイルスに苦慮する英国=黒木亮

 筆者が住む英国は、全人口の約45%が2度のコロナワクチン接種を受け、今年3月以降、徐々にロックダウン(外出・経済活動制限)を緩和してきた。

 しかし、6月21日に予定されていた第4段階(最終)の緩和を4週間先の7月19日まで延期することが決定された。一時は2000人程度にまで減った1日の感染者数が、7000~1万人に増えてきたためだ。

 ただし状況は必ずしも悲観的ではない。ワクチンは死亡・重症化リスクにはかなり有効で、1月のピーク時に1823人を記録した1日の死者数は1桁~20人弱まで激減し、増加傾向はごく僅かである。また新規感染者の約9割が49歳以下で、ワクチンをまったく接種していないか、接種していても1回しか受けていない者がほとんどである(ワクチン接種は高齢者から進められ、現在、対象年齢は18歳まで下がった)。

 ボリス・ジョンソン首相は、ロックダウン緩和の延期はこれが最後だとしている。現在、英国でワクチンの2度の接種を受けたのは成人人口の57%で、これを7月19日までに76%に引き上げる計画である。

大型イベントは「お預け」

 英国は昨年3月23日から(時期によって強弱の差はあれ)ずっと続いてきたロックダウンを3月8日から4段階に分けて緩和してきた。3月29日には家の近所以外にも出かけられるようになり、4月12日には一般の商店やレストランの屋外席の営業が再開した。5月17日には屋外で会えるのは6人までという制限が撤廃され、レストランの屋内席も再開され、結婚式や葬儀は最大30人まで参加が可能になった。

 今回4週間延期された第4段階の緩和では、人が会う場合の人数制限の大半を撤廃し、ナイトクラブや大型イベントも再開できる予定になっていた。

ロンドンの地下鉄のホーム。マスク着用が義務 筆者撮影
ロンドンの地下鉄のホーム。マスク着用が義務 筆者撮影

 ロックダウンの緩和で社会はようやく息を吹き返した感じである。街なかなどはコロナ禍以前と変わらない人出で、天気のいい日には人々が公園の芝生で久しぶりの外出を満喫している(写真(1))。(商店内や交通機関でのマスク着用等はなおしばらく残る可能性がある=写真(2))。

 ジョンソン首相も、5月29日にロンドンのウエストミンスター寺院で、元保守党の広報担当、キャリー・シモンズさんと結婚式を挙げた。2人の間には、すでに昨年4月に第1子が生まれているので、ロックダウンの緩和を待っての挙式だった。ちなみにジョンソン首相はこれが3度目の結婚で、1人の婚外子を含む6人の子どもがいる。首相の宗教であるカトリック教会のメンバーたちは「ボリスは今度こそちゃんとズボンをはいているよう希望する」とコメントした(「keeps his trousers on」は、「辛抱する」という意味だが、首相の浮気癖をあてこすっている)。

 海外旅行については、5月17日から可能になったが、行ってもよい「グリーンリスト」の国は、オーストラリア、シンガポール、イスラエルなど11カ国だけである。近場のポルトガルも当初これに入っていたので、英国から旅行者たちが太陽を求めて出かけた。ところが同国での感染拡大を受け、6月8日以降はグリーンリストから外すことが6月3日に決定され、帰国者は2度のウイルス検査と10日間の自主隔離が必要になった。同国に滞在していた多くの旅行者は慌てて滞在を切り上げ、高い航空券を買って帰英する騒ぎになった。

インド株の猛威

 ここにきて感染者数が増えてきた原因は、変異ウイルス「デルタ株」(インド株)の流行だ。

 元々ロックダウンの緩和で、感染者数が増加することは予想されていた。特に4月12日からのレストランやパブの屋外席の営業再開後は、大勢の人々が酒を飲みながら談笑する風景が復活し、感染者が確実に増えると実感させられた。

 そこにタイミング悪く、デルタ株の流行が始まったのである。普通のコロナウイルスより感染力が強いアルファ株(英国株)のさらに5~6割強い感染力を持つ変異株だ。現在、英国の新規感染の9割超がデルタ株である。

 デルタ株の感染が特に多いのがイングランド北西部の、グレーター・マンチェスター圏内のボルトン、ランカシャー州のブラックバーンなどだ。ここは移民の比率が高く、元々新型コロナの感染者数が多かった地域だ。最近は、イングランド中部、ロンドン、南東部にかけても広がりを見せ、感染の大半がアルファ株からデルタ株に置き換わった。

 政府は、感染拡大地域に対して重点的にワクチン追加供給、大型検査センター設置、移動検査車の配備、戸別訪問による相談や検査推奨を開始した。これは以前、ロンドン南部で南アフリカ変異種の感染を抑えるのに成功した手法だ。

ワクチン・バスが巡回。不法移民も接種可能 筆者撮影
ワクチン・バスが巡回。不法移民も接種可能 筆者撮影

 さらに不法移民でもワクチン接種を受けられるワクチン・バスを巡回させている(写真(3))。英国には最大で90万人程度の不法移民がいると推定されており、これらの人々は小さな家に複数の家族で住んでいるケースも多く、新型コロナの感染リスクが高い。ワクチン・バスにはNHS(国営医療サービス)の看護師ら3人ほどが乗っており、証明書類を一切求めず、予約なしで接種を受けられる画期的なものだ。5月27日にロンドンの中華街をバスが訪れたときは、中国系の人々を中心に数千人が接種を求めて集まった。

市内の地下鉄駅で無料配布されている検査キット 筆者撮影
市内の地下鉄駅で無料配布されている検査キット 筆者撮影

 また地下鉄駅などでは、PCR検査キットを無料で配っている(写真(4))。

 以上の通り、ワクチン先進国、英国の状況は、楽観はできないが、悲観するほどでもないといったところだ。ただし、国内で感染が抑え込めても、世界的な感染が収まらない限り、(1)検査・追跡・隔離のシステム、(2)国境での防疫管理、(3)ソーシャル・ディスタンシングとマスクの三つは半永久的に必要になると考えられている。

(黒木亮・作家)

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