人気ミステリー作家・知念実希人さんに聞く創作論、そして小説を書き出す前の日々
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医療ミステリーの旗手=知念実希人・小説家、医師/848
累計発行部数160万部超えの『天久鷹央の推理カルテ』シリーズなど、知念さんの現役医師ならではの医療知識を盛り込んだミステリー小説が、多くの読者を魅了している。
(聞き手=加藤結花・編集部)
「面白い物語が書ける人の需要は高まっている」
「人が面白いと感じる物語にはある程度、規則性がある。僕は面白い小説を書く職人」
── 人気作家として小説の執筆に追われる日々かと思いますが、現在も医師として勤務しているのですか。
知念 週1回、実家のクリニックで働いています。父親が高齢ということもあり、なるべく父を休ませたいという思いもあります。弟も医者なので、彼も週1、2回働いています。叔父やいとこも医者という医者家系なので、医者になるのは目指したというよりも、ごく幼いころから「そういうものだ」と受け入れていたことでした。医師である父親のことも尊敬していましたし、それは自然なことだったと思います。(ワイドインタビュー問答有用)
2004年、医師国家試験に合格。医師として安定した将来のキャリアが約束されていた身だったが、幼い頃から好きだった小説を書いて生きていきたいと一大決心。30歳の時、医師として勤務しながら本格的な執筆を開始。約3年間の投稿生活を経て、11年、『レゾン・デートル』で島田荘司選ばらのまち福山ミステリー文学新人賞を受賞。同作を『誰がための刃』と改題し、デビューした。これまでの作品の販売部数は約600万部。
ミステリーに夢中
── 小説家になりたいという思いはいつからありましたか。
知念 高校2年生の時に応募した原稿用紙50枚程度の短編推理小説が入選しました。作家の鮎川哲也さん(故人)が素人の投稿作品を10編ほど選んで1冊の本にするというもので、非常にうれしかった記憶があります。将来、小説家になりたいという思いを強く持つきっかけになりました。
── 書いてみたきっかけは。
知念 「自分の方が絶対、面白いミステリーが書ける」と思ったからです。というのも当時はいわゆる「新本格ブーム」という本格ミステリー小説の一大ブームがあって、毎月のようにミステリー小説が刊行されていました。
私も夢中で読みましたが、次第につまらない作品が目につくようになりました。どのジャンルでもそうかと思いますが、人気が出ると、そのジャンルに詳しくない人や好きでもない人が大量に流れ込むので、質の劣化が起きてしまいます。そういったブームに乗って書かれたと思われるつまらないミステリー作品を読み、自分の方が面白いものが書けると思いました。
── いつからミステリー好きに?
知念 幼い頃から、本を読むのが好きでした。小学校3年の頃、家の本棚にあったモーリス・ルブランの『アルセーヌ・ルパン』シリーズを見つけて読んで、その面白さに衝撃を受け、そこから子供用のルパンシリーズやシャーロック・ホームズを親に買ってもらって読みました。
一通り読み終わると、その流れで、アガサ・クリスティー、エラリー・クイーン、ディクスン・カーといった有名な海外ミステリー作家の本を読んでいきました。
── すぐに小説家を目指さなかった理由は。
知念 性格的にリアリストなところがあるので、小説家はあくまで…
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週刊エコノミスト
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