新社会人の半分が大学卒の中国で、IT分野以外は職に就けず失業問題が深刻に=三尾幸吉郎
若年層の失業率が高水準 大卒者の雇用ミスマッチ深刻=三尾幸吉郎
新型コロナウイルス禍をいち早く抜け出した中国は、経済成長率がV字回復し、失業率もコロナ前のレベルまで低下した。しかし、若年層(16〜24歳)の失業率(都市部)を見ると、昨夏の16.8%をピークに低下してはいるが、13.8%と依然高水準にある(図1)。
若年層の失業率が高い背景には、雇用のミスマッチがある。中国は1990年代後半に、経済の高度化、IT化、国際化を担う人材を育成しようと、多くの大学を新設した。中国教育部が発表した高等教育機関(大学など)への就学率は、2019年に51.6%に達しており、新社会人の2人に1人は大学卒という状況になっている(図2)。なお日本の大学・短大進学率は58.6%(20年度)だ。巨大な人口を抱える中国が、これだけの大学等就学率を記録していることは、驚異的ともいえる。
大卒ゆえに就職できず
こうした状況を背景に、最近では、ビッグデータやAI(人工知能)、5G(第5世代移動通信システム)を担う人材も育ち、それらを活用した起業も増加している。採用の際に職務をあらかじめ明確にする「ジョブ型採用」が主流の中国では、最近、ほぼ全ての業種で、IT関係の専門知識を持つ人材が求められるようになってきたため、それらの専門知識を持つ大卒者は引く手あまただが、持たない大卒者は自分の望む職業に就けなくなっている。
政府当局は、こうした雇用ミスマッチに神経をとがらせているようだ。放置すれば、経済成長の足かせとなるだけでなく、若年層が政府批判に向かう可能性もあるためだ。89年の「天安門事件(六四)」や香港の「雨傘運動」と民主化デモ、台湾の「ひまわり学生運動」などは、いずれも学生など若年層が主役だった。
欧米への急速なキャッチアップを目指し、教育分野にも多大な力を注いできた中国だが、それゆえの矛盾も、若年層の失業問題となって顕在化している。
(三尾幸吉郎・ニッセイ基礎研究所上席研究員)