最高益をたたき出す米鉄鋼最大手ニューコアの強さとは=宮川淳子
ニューコア 好市況で最高益の米鉄鋼最大手=宮川淳子/344
◆Nucor
ニューコアは米国最大の鉄鋼メーカー。2020年の粗鋼生産量は2700万トンで、堅実な経営方針で連続48年の増配を続けている。21年に入ってからは、世界での経済再開や中国の需要拡大による鉄鋼価格の急騰などに注目が集まっていることで、株価は過去最高値を更新している。
米国の鉄鋼業は1970年代をピークに、欧州や日本の鉄鋼メーカーに比べて競争力が低下するなどしたが、ニューコアは「ミニミル」と呼ばれる小規模な電炉で、環境負荷の少ない鉄鋼製品を効率的に生産。鉄鋼生産の主流の高炉法とは異なるミニミルに特化し、製品の幅を徐々に拡大することで、利益率が高く市況に左右されにくい収益体質を作ってきた。
傘下に鉄スクラップの米デイビッド・J・ジョセフ・カンパニー(DJJ)を持ち、低コストで安定した原料調達ができている。産業用機械、建設、石油・ガス、鉄道、自動車など幅広い市場向けに生産をしている。
炭素排出量も少なく
21年第1四半期(1~3月)のニューコアの最終利益は9・4億ドル(約1000億円)と、四半期決算で過去最高となった。米国では新型コロナウイルス禍からの経済活動の再開により、鉄鋼製品の価格上昇が続いている。同社はそのため、第2四半期(4~6月)も過去最高をさらに更新できると予想している。
鉄スクラップの平均コストも上昇しているが、ミル(条鋼・鋼板・鋼管など主に普通鋼)、プロダクツ(冷間仕上げ鋼や精密鋳造品などの鉄鋼加工品)、マテリアル(原材料)の3事業で需要は旺盛だ。また、コスト増は製品の販売価格に転嫁できており、収益の大幅な増加につながっている。
主力のミル事業の利益率は3事業の中で最も高く、売り上げの伸びも著しい。特に、全社売上高の約3分の1を占める鋼板の21年第1四半期の平均販売価格は前年同期に比べて43%上昇。鉄スクラップの平均価格も同38%上昇したが、製品価格の値上げで吸収した。その結果、ミル事業のEBITマージン(売上高に対する利払い前・税引き前利益の比率)は29%と高水準だった。コロナ禍からの経済の回復に伴い、こうした高い販売価格が続けば、21年度は通年ベースで好調な業績が予想される。
ニューコアはもともと医療用放射線メーカーだったが、60年代半ばに鉄骨加工業に集中したことで現在のビジネスモデルに近づいた。特に、鉄鋼の生産に参入する際には、技術や資金面でハードルが高い高炉ではなく、生産設備や原材料のコストが低いミニミルに注力したことが、これまでの着実な成功につながっている。鉄鋼業界では高炉の新設が主流で、ミニミルは特殊鋼専用と当時は考えられていた。しかし、ニューコアは生産規模と製品の幅を拡大させていく過程で、ミニミルでの加工技術を高度化させていった。
欧州アルセロール・ミタルや日本製鉄など業界最大手が主とする高炉法と異なり、ミニミルの1工程当たりの生産量は少なく、高級鋼の製造が難しいといった制約がある。しかし、需給バランスの悪化で鉄鋼価格が下落した場合、高炉法では24時間連続操業のため炉を停止できないが、ミニミルでは市況をみながら炉の停止や再開を行うことで生産量を調整しやすいメリットがある。高強度鋼板のような高付加価値製品についても、エンドユーザーの生産拠点に近い場所にミニミルを新設し、顧客の細かいニーズに合った生産体制や技術開発を行っている。
また、高炉法では鉄鉱石とコークス(炭素)を化学反応させるが、ミニミルは鉄スクラップを電炉で溶解する鉄のリサイクル方式である。粗鋼1トン当たりの二酸化炭素(CO2)排出量は高炉の4分の1程度で、環境負荷が大幅に少ない。このため、ニューコアの粗鋼1トン当たりのCO2排出量は、鉄鋼メーカーの世界平均の半分程度になっている。
高い資産効率
世界的に脱炭素化に向かう中、他産業よりCO2排出量が多い鉄鋼業の中でも、環境負荷が少ないミニミルに特化しているニューコアに対する企業評価は高まっている。世界全体の電炉比率は現在3割程度にとどまっていることから、今後数年で急速に電炉化を進めるとみられるが、ニューコアの水準に追随するには数年以上を要するだろう。
ミニミルのメリットは、ニューコアの高い利益率や健全な財務状況にも表れている。低コストの鉄スクラップが傘下のDJJから安定的に供給されていることなどから、ニューコアの直近5年平均のEBITDAマージン(売上高に対する税引き前・利払い前・減価償却前利益の比率)は13%と業界内でも高い。粗鋼生産量で世界トップクラスのアルセロール・ミタルは同比率は10%と、ニューコアを下回る。
また、ミニミルの生産設備が小規模で投資負担が小さいため、バランスシートは健全である。債務負担が小さいため、アルセロール・ミタルの直近5年平均のROA(総資産利益率)2・9%に対して、ニューコアの同比率は7・6%と資産効率も高い。
ニューコアは今後1~2年で3件の大規模プロジェクト(ゲージ鋼やコイルの増産設備、第3世代先進高強度鋼の新設、高付加価値薄板の新設)を計画している。これまで生産比率が低かった自動車や電気機器業界向けの鋼板生産を増強するためで、3プロジェクトで総額26億7500万ドル(約3000億円)を投じる。このため、負債がやや増加するなど財務面での負担が高まる。
しかし、先進的な高強度鋼は電気自動車(EV)向けに軽量化が進む自動車業界では不可欠で、生産設備の新設は顧客層のさらなる拡大につながると期待できる。
(宮川淳子・証券アナリスト)
増加し続ける鉄鋼需要 鉄スクラップも膨大に
「鉄は国家なり」という言葉は19世紀に生まれ、産業の発展とともに鉄鋼生産量は増加し続けている。鉄の用途は広く、産業構造が変わっても鉄鋼需要が大きく減少することは今後も考えにくい。
原材料としての鉄スクラップだが、鉄スクラップ・リサーチによれば、1870年から2018年までの約150年間の世界全体の鉄鋼蓄積量は323億トンと推計される。鉄鋼蓄積量は生産量から消費を差し引いて求められる量で、19年の世界の粗鋼生産量(約18億7000万トン)の17倍超と、今後も膨大な量の鉄スクラップ発生が見込まれる。
日本の電炉比率は3割程度で高炉より少ない。普通鋼電炉メーカーは現在日本に約30社あり、それぞれが得意とする製品構成を持ち、各地域で生産を行っている。大手の高炉メーカーが環境問題への配慮で電炉比率を高めつつある中、電炉業界の業界再編や集約につながる可能性もあるだろう。
(宮川淳子)
企業データ
本社所在地=米国ノースカロライナ州シャーロット
CEO=レオン・トパリアン (Leon Topalian)
総資産=201億2539万ドル
純資産=107億8866万ドル
売上高=201億3965万ドル
当期純利益=7億2147万ドル
従業員数=2万6400人
主な上場取引所=ニューヨーク証券取引所
(注)数字は2020年12月期