「菅降ろし」の動きを封じ込めてもまだ危うい、首相の楽観シナリオ=人羅格
有料記事
五輪の有観客にこだわった 菅首相の危うい楽観シナリオ=人羅格
衆院議員の任期満了を10月下旬に控え、衆院選は東京五輪・パラリンピックをはさみ、秋以降に行われることが固まった。
菅義偉首相は五輪を「有観客開催」で乗り切り、衆院選勝利と自民党総裁再選につなげるシナリオを描く。高齢者へのワクチン接種の進展や、自民党内の「菅降ろし」失速が、低支持率の政権に危うい楽観ムードを広げている。
「安全安心のため、無観客も辞さない」。6月21日、首相は五輪観客の上限を「1万人」とすることに関し、緊急事態宣言が再発令された場合は無観客への切り替えもためらわぬと説明した。
攻防は幹事長人事に
一見、開催慎重論に配慮したように見える発言だ。だが、実際には緊急事態宣言が再発令されても無観客が最大限の対応であり、「中止」は念頭にないことを明確にしたともいえる。
「6月のG7(主要7カ国)サミット出席を境に、首相の頭から『中止』は完全に消えた」と側近らは口をそろえる。尾身茂感染症対策分科会長ら専門家有志が提言したように、リスク回避のため無観客方式を「落としどころ」とする選択肢もあった。だが、首相は有観客にこだわった。「不正常な大会」を内外に印象づけることを嫌ったためではないか。
確かに、ワクチンは重症化しやすい高齢者に接種が浸透している。加えて、首相の強気の背景にあるのは、内閣支持率が30%台に低下しても「菅降ろし」が活発化していないことだ。
自民党内の主導権争いは現在、二階俊博幹事長と、「3A」と呼ばれる安倍晋三前首相、麻生太郎副総理兼財務相、甘利明元幹事長の3氏連合による綱引きを軸に展開している。その核心は、二階氏と安倍氏の攻防である。親中派の二階氏に対し、安倍氏のバックには対中強硬派が控える。二階氏と「3A」の対立が先鋭化すれば、政権の屋台骨が揺らぐ。
だが、「反二階」勢力や3Aには「ポスト菅」が決め手を欠く弱みがある。野党が最も警戒するのは衆院選前に首相が交代し、人気度の高い河野太郎行革担当相や野田聖子幹事長代行が後を継ぎ、直ちに総選挙に突入する展開だ。
だが、河野氏は首相、野田氏は二階氏に近い。…
残り1179文字(全文2079文字)
週刊エコノミスト
週刊エコノミストオンラインは、月額制の有料会員向けサービスです。
有料会員になると、続きをお読みいただけます。
・1989年からの誌面掲載記事検索
・デジタル紙面で直近2カ月分のバックナンバーが読める