経済・企業

景気にはほど良い規模に収まった米インフラ合意=今村卓

党派対立を乗り越えた「成果」(バイデン大統領=中央) (Bloomberg)
党派対立を乗り越えた「成果」(バイデン大統領=中央) (Bloomberg)

米インフラ法案で超党派合意 「刷新」は難しい1・2兆ドル 景気にはほど良い規模に着地=今村卓

 バイデン米大統領は6月24日、上院議員の10人の超党派グループがまとめたインフラ投資法案に合意した。今回合意した予算は5790億ドルを見込み、すでに確保していた予算と合わせると8年間で総額約1・2兆ドル(約130兆円)となる。インフラ刷新には物足りない規模だが、足元では景気過熱によるインフレ懸念も浮上する中、結果的には米国経済にはほど良い内容に収まった。

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 今回の合意では、道路や橋、鉄道、空港などの従来型のインフラ更新に重点を置きつつ、気候変動対策として電気自動車(EV)の充電拠点の拡充やバスの電動化など運輸部門に計3120億ドルを配分。高速通信網の整備に650億ドル、クリーンな電力網に730億ドルを割り当てる。財源は、徴税強化と新型コロナウイルス対策の未使用資金などから捻出する。バイデン政権が訴えてきた法人税率の引き上げなどの増税は見送られた。

 8年間でこの規模の投資額では、老朽化した米国のインフラの刷新や、最新鋭の高速鉄道・道路網やスマートシティーの建設は難しく、米国経済に与える効果は限定的だろう。ただし、新型コロナウイルスのワクチン接種が進み、コロナ禍の収束が視野に入る中、需要が急拡大している。2021年の米国の成長率は6・8%と37年ぶりの高成長が見込まれており、インフラ投資の規模の小ささが問われる局面ではない。

 老朽化したインフラの刷新の必要性は00年代半ばから超党派で認識されてきたが、党派対立を乗り越えて予算を付けることができなかった。合意の背景には「米中対立」があったとの見方もある。政権も議会も中国との競争を意識し、危機感の共有につながったことは間違いないだろう。

インフレ率は高めに

 6月25日に発表された21年5月の米個人消費支出(PCE)は、名目個人所得が前月比2%減少、実質個人消費支出は同0・4%減となった。3月に実施された家計への現金給付を受けた大幅増加からの反動の継続で、個人消費の基調は強い。個人貯蓄率は12・4%と高水準であり、さらなるワクチン普及と行動制限の緩和、消費者心理の改善を受けて、個人消費はサービスを中心に一層増える可能性が高い。

 他方で、需要の急速な伸びに対して供給が追いつかず、多くの製品、サービスで価格が押し上げられている。PCE総合価格指数は前年同月比で3・9%上昇、エネルギー・食品を除くPCEコア価格指数も同3・4%上昇と1992年4月以来の高い伸びを記録しており、年後半も3%強と高めの状況が続く可能性が高い。今後はいかに景気を過熱させないかが、経済政策の肝となる。

(今村卓・丸紅経済研究所長)

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