経済・企業

一流人材でも難しかった東芝ガバナンス改革の深刻度=藤田勉

東芝株主総会で、永山取締役会議長の再任が否決された
東芝株主総会で、永山取締役会議長の再任が否決された

東芝株主総会 取締役会議長の再任否決 失敗したガバナンス改革=藤田勉

 東芝の経営の混迷が続いている。もともと東芝は、ガバナンス改革に熱心だった。2003年、日本で最初に米国型ガバナンスといわれる「指名委員会等設置会社」に移行し、社外取締役の数を増やしてきた。今年4月時点では、社内取締役1人に対し、社外取締役は10人。最新のコーポレートガバナンス(CG)報告書では、CGコード(企業統治原則)をすべて実施していることを表明している。

 6月25日に開かれた東芝の株主総会では、永山治取締役会議長の再任が否決された。だが、筆者は永山氏ほど優れた経営者は珍しいと思っている。永山氏は1992年に中外製薬社長に就任し、2020年まで最高経営責任者(CEO)を務めた。スイスの世界的な製薬企業ロシュ・ホールディングとの資本提携を成功させ、1兆円に満たなかった時価総額は最大で10兆円以上に拡大した。ソニー(現ソニーグループ)の取締役会議長としても成功している。

 だが、その永山氏をもってしても、東芝改革を成功させることはできなかった。他の社外取締役も一流の経歴を持つ人ばかりだが、欧米の制度を表面的に経営に導入するだけでは、実効的なガバナンス改革は難しいことを示している。

進まない新陳代謝

 日本のCGコードの目的は、「会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上」とある。コードの導入から6年がたったが、日本企業の国際的な地盤沈下は止まらない。

 代表的なテクノロジー企業の時価総額は、世界首位のアップルの229兆円は言うに及ばず、TSMC(台湾)の62兆円、サムスン電子(韓国)の48兆円と比べ、日本トップのソニーグループは14兆円にとどまる(1ドル=110円換算、5月末時点)。さらに、キヤノンやパナソニックは同3兆円、東芝は2兆円と遠く及ばない。

 一方、米国では設立間もない若いベンチャー企業が続々と育っている。94年創業のアマゾンの時価総額は179兆円、03年創業のテスラは同66兆円、04年創業のフェイスブックは102兆円だ。日本では、比較的歴史が浅いと考えられているリクルートホールディングスは61歳(創業1960年)、ファーストリテイリングでも58歳(同63年)と、人間で言えば既に還暦前後だ。産業の新陳代謝が進んでいない。

 日本企業の成長力を高める最も効果的な手段は、まずは大型ベンチャー企業を育成することだ。形式重視で名門企業を改革することにエネルギーをかけるよりも、ベンチャー企業育成によって、新陳代謝を促進させることがガバナンス改革に有効だと、東芝の迷走が示している。

(藤田勉・一橋大学特任教授)

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