経済・企業

4回目の緊急事態宣言でGDPは下押し オリンピック開催の経済効果は=神田慶司

4回目の緊急事態宣言 GDP押し下げは4700億円五輪 「無観客」で経済効果も縮小

 新型コロナウイルス感染症の再拡大などを受け、東京都に対して4回目の緊急事態宣言が発出された。

 今回の宣言による影響は、要請内容やこれまでの宣言時の個人消費の動きなどを基に試算すると、実質国内総生産(GDP)の減少額は2100億円程度とみられる。ただし、これに沖縄県に対する宣言や4府県に対するまん延防止等重点措置の延長による影響を加えれば、減少額は4700億円程度に拡大する。

 それでも経済損失は3回目の宣言時よりも小さくなろう。仮に3回目の措置が今回と同様に42日間実施されると、実質GDPの減少額は10都道府県ベースで1・1兆円程度と試算される。今回は宣言の対象地域が少ないことに加え、大型商業施設に休業要請しなかったことが寄与している。

サービスは悪化

 4回目の宣言発出後は、2、3回目の宣言時と同様にサービス消費を中心に悪影響が表れるとみている。耐久財消費は5月から6月にかけて減少したとみられるが、これは半導体不足で自動車が減産されたためだ。宣言の影響で減少したわけではなく、7月以降に持ち直す見込みである。

 7~9月期の実質GDP成長率は宣言の影響で低下が避けられない情勢だが、8月22日に宣言が解除されれば、プラス成長を達成するとみられる。ワクチン接種の進展で経済活動の再開が円滑に進むと期待されることに加え、東京オリンピック・パラリンピックの開催による経済効果が一定程度見込まれるためだ。

 東京都は2017年に大会開催による直接的な経済効果を2兆円と試算した。ただし大半を占める施設整備費や大会運営費の多くはGDPに計上済みである。

 一方、大会関係者や観戦者の消費支出として見込まれていた2000億円超は、ほぼ無観客開催になったことで大幅に縮小する。そのため大会開催による実質GDPの押し上げは3500億円程度の見通しだ。

 今後懸念されるのは、対象地域の拡大や期間延長の可能性だ。仮に人出の減少が小幅にとどまり、感染力の強い変異株(デルタ株)への置き換わりが急速に進めば、東京都の新規感染者数は1日当たり1000人を超える状況が長期化する。他地域でも感染状況が深刻化し、政府は追加の措置を余儀なくされよう。

 当面は感染拡大防止に力点を置く必要があるが、その間にワクチン接種をいかに進められるかも課題である。足元の接種ペースが継続すると、9月末には全国民の約半数がワクチンの2回接種を終える。現在の米英並みの水準だ。感染拡大リスクは低下し、重症者数の増加も抑えられ、経済活動の正常化が秋から急速に進むとみられる。

 こうした状況を実現する上では、接種希望者をいかに増やすかも重要になる。ワクチン接種率が一定程度高まった段階で「ワクチンパスポート」の幅広い利用を検討するなど、政府・自治体はワクチン需給のミスマッチを抑える取り組みを連携して進めるべきだ。

(神田慶司・大和総研シニアエコノミスト)

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