【週刊エコノミスト創刊100年キャンペーン実施中】いまなら週刊エコノミストオンラインをお申し込みから3カ月間無料でお読みいただけます!

週刊エコノミスト Online

動く超大型物件 8000億円の複合開発ビル取得例も=小夫孝一郎

世界の不動産投資市場が活況だ。2021年に入り数千億円単位の超大型取引が相次いでいる。コロナ禍で各国が低金利を続ける中、米国や韓国では住宅価格の上昇が社会問題にもなっている。ワクチンでオフィス回帰の動きも出ている。

特集「ワクチン接種で始まる 沸騰経済」はこちら>>

 2020年の世界経済は、新型コロナウイルスの感染拡大とそれに伴う経済活動の停滞で大きな打撃を受けた。しかし、コロナ危機においても世界の不動産セクターは大きな価格調整はみられていない。逆に、景気回復の見通しが強くなるにつれ、投資家のマネーが再び不動産に集中する兆候が出ている。コロナ後の世界の収益不動産(賃貸収入を生み出す不動産)市場はどう動くのか、今後利上げが実施された場合の影響や米国をはじめとする各国の最新の動きを交えながら考察する。

年後半には取引額も底打ち

 収益不動産の売買取引額についてみると、20年はロックダウンや渡航制限の影響、またコロナ後の景気回復見通しがたたなかったことから投資を一時控える動きがあった。20年第2~3四半期の取引額は前年同期比で一時4~5割の下落となった。もっとも8割の下落を記録したリーマンショック時と比べると影響は限定的だったと言える。

 年後半にはすでに取引額も底打ちし、足元では盛り返す兆しがみられる。今年に入って米国やフランスなどで20億ドル(2000億円超)以上の大型取引が出てきた。6月にはシンガポール企業が開発した上海や北京の複合開発ビルのポートフォリオを中国の保険会社が約8000億円で取得する超大型取引が進んでいると報道されるなど、世界的な目玉物件の取引も再び活発化している(表)。

社会問題化する住宅価格上昇

 不動産の価格や投資パフォーマンス(収益率)はどうであろうか。20年来各国で大規模な金融緩和が実施されていることもあり、今回の景気悪化サイクルでは不動産価格の下落は限定的だ。逆にアメリカや韓国、オーストラリアなど国によっては、低金利下で住宅価格の値上がりが大きな社会問題になってきている。機関投資家を相手とする収益不動産でも傾向は同じで、一部のセクターを除くとトータルリターン(不動産価格の値上がり益と毎期の賃料収益を合計したもの)の落ち込みは心配されたほど大きくなく、多くの国で平均リターンは減速しつつもプラスのまま推移している。

セクター間で明暗くっきり

 ただ今回はオフィスビルや物流施設といった不動産のセクター間で優劣の差が大きくなっているのが特徴だ。全セクターが一律に打撃を受けたリーマン・ショック時と比べると対照的な動きになっている。

 最大の不動産投資市場である米国の収益不動産の四半期ごとのセクター別のトータルリターンを見ると、最も落込みが大きいのは観光客の減少による影響をダイレクトに受けたホテルセクターで、直近のデータでも年率20%超のマイナスとなっている(図)。

 飲食店を中心に営業制限などの影響が大きかった商業施設セクターも厳しい状況が続き、物販部門でもコロナ禍で需要がオンラインにシフトする動きが加速した。

突出する物流施設

 好調なのはEコマースの成長で追い風が続く物流施設(倉庫)セクターだ。コロナ不況をものともせず年率10%以上の高いトータルリターンがおよそ10年にわたって続いている。賃貸住宅セクターも需要が安定しているが、大都市では一時的に人口が流出したため都市中心部では苦戦するエリアもみられる。オフィスセクターは在宅勤務の拡大で賃料の調整が続いているが、ワクチン接種率の高まりで従業員がオフィスへ回帰する機運も高まっており、今後どの時点で底打ちするかが焦点となる。

リートが示す今後の現物価格

 現物の不動産は、株式や債券のように売買が容易ではない。価格や収益の回復状況が統計データに表れるまで時間がかかる。一方、上場リート(不動産投資信託)の投資口価格(株価に相当)は、金利や経済に関する今後の見通しが即座に反映される。そのため、不動産市場の動きを先取りするという側面がある。

 米国上場リートのセクター別インデックスは、経済再開の動きを見越して20年秋口からすでに9カ月以上にわたり回復局面が続いている。現物の不動産と比べると回復傾向がいち早く統計にも表れている。

データセンターはコロナの影響受けず

 米国上場リートのなかで物流施設セクターは好調だ。実物の不動産市場でも物流施設は強い。さらにDX(デジタルトランスフォーメーション)の恩恵を受けるデータセンターや通信タワー(携帯電話用の通信設備を保有)もコロナ禍の影響をほとんど受けず好調に推移している。これに続くのが賃貸住宅セクターで、今年に入ってコロナ危機前の水準を取り戻している。

 一方、オフィスビル、リテール(商業施設)、ホテルの各リートセクターはいずれもコロナ危機前の水準を依然として1~2割下回った状態が続く。ワクチン接種の普及とともに今後の見通しには徐々に明るさが出ているものの、コロナ危機前の水準を取り戻すのにはやや時間がかかっているといえる。

インフレに強い不動産

 今後の不動産市場における懸念材料は、足元のインフレとそれに伴う将来の利上げ観測である。不動産の賃貸契約では契約更新時にインフレ率と同じ水準で賃料の引き上げを実施できることも多いため、不動産はインフレに強い資産クラスであるといえる。実際に過去の統計からもこれが裏付けられている(図)。

 ただ、仮に今後、急激な利上げが行われるような局面があった場合、銀行借入れコストが上昇し不動産価格にはマイナスの影響が出る可能性も否定できない。上場リートの価格推移はこれらの外部環境の影響を測定する先行指標として有効で、これまでのところリートの回復トレンドに大きな変調はみられない点はひとまず安心材料だが、今後の不動産市場の行方を占う指標として引き続き注目される。

(小夫孝一郎・ドイチェ・アセット・マネジメント アジア太平洋不動産リサーチヘッド)

特集「ワクチン接種で始まる 沸騰経済」はこちら>>

インタビュー

週刊エコノミスト最新号のご案内

週刊エコノミスト最新号

10月11日号

止まらない円安 24年ぶり介入第1部 市場の攻防15 亡国の円買い介入 財政破綻を早める ■編集部17 1ドル=70円台はもうない ■篠原 尚之 ドル高が揺さぶる「国際金融」 ■長谷川 克之18 円安 これから本格化する内外金利差の円売り ■唐鎌 大輔20 国力低下 米国の強力な利上げはまだ続く 円 [目次を見る]

デジタル紙面ビューアーで読む

おすすめ情報

編集部からのおすすめ

最新の注目記事