週刊エコノミスト Online ワクチン接種で始まる 沸騰経済
レンタカーが足りない!回復前夜の沖縄の憂鬱
沖縄はワクチン接種の広がりで秋口から観光需要の回復が期待されている。しかし、観光客の減少による傷口は大きい。県内のバスや運転手、レンタカー台数が減少するなど、今後の受け入れ態勢には難題がある。沖縄経済同友会副代表幹事、沖縄ツーリスト会長・東良和氏に影響と見通しを聞いた。
―― コロナ禍で観光業への打撃が大きい。
東 2020年秋のGoToキャンペーンで国内の観光地は一時盛り上がったと思うが、沖縄はその恩恵を十分受けないまま厳しい状況が今も続いている。沖縄旅行の場合、飛行機を2カ月前とかに予約するため、GoToで週末に首都圏の近場温泉にちょっと行こうということにならないためだ。数カ月遅れで少し観光客が増え始めた矢先に停止になった。
例えるなら、野球の試合で一度もバッターボックスに立っていない。当社は月間ベースで億円単位で損失を出している。20年度の売上高は19年度比で8割減だ。今年4~5月は去年より多少良くなったが、6月は緊急事態宣言で一転して再び悪くなっている。
ビルやレンタカーを売却
―― 事業継続のための対応は。
東 保有するビルや子会社の株を売却している。約3000坪の大きな土地も手放した。社員の雇用と運転資金の確保のためだ。レンタカーは保有台数を半分以下に減らし、現在800台程度。沖縄県のレンタカー業界全体でも19年比で約4割減となっている。
―― ニュージーランドでもレンタカー事業を行っている。
東 ニュージーランドは20年3月のロックダウン(都市閉鎖)の前に、政府から当社従業員全員に給与補償があった。月16万円程度だった。観光業が中心のニューカレドニアでも観光客が激減したが、政府からの補償で知り合いの日本人が経営する観光バス会社は黒字決算と聞く。観光産業を大切に残そうという国の姿勢を感じる。
一方、日本は観光促進を外貨獲得の手段にしていた側面がある。経済面での利益ばかりを目指したことのひずみをコロナ禍で感じている。海外ではバカンスは文化であり、人が1年を暮らす中で重要な時間とされているが、日本では不要不急のぜいたく品と思われている。
「今年旅行に行きたい」が7割
―― 日本でのワクチン接種の広がりを今後どういかすか。
東 10~11月ごろからワクチン接種を2回終えた人たちが急増するだろう。国内旅行は回復に向かうとみている。当社が顧客・取引先企業で約4000人を対象に「ワクチン接種後、いつ旅行に行きたいか」というアンケートを行った調査では、「今年」が67%、「来年」が30%で、合計97%が来年までに旅行に行きたいと答えている。
ワクチン接種は高齢者から進み、しかも、高齢者は意欲的だ。人生の節目を旅行で祝うプランを企画している。記念撮影や個室での慶祝の宴会など、付加価値を付けて需要喚起をしていきたい。旅行での特典が増えれば、ワクチンを接種しようという若者も増えるだろう。
バスの台数や運転手の数が減っている
―― ワクチン接種で沖縄はコロナ前の好況に復活するのか。
東 いずれはコロナ前の水準に戻ると思うが、本格回復には時間がかかりそうだ。旅行需要が回復しようとしている時、まさに機会損失が起きるためだ。例えば、今年の夏は沖縄には十分なレンタカーがない。バスの台数や運転手も減っている。観光施設やお土産店なども休業状態、ホテルの客室清掃員不足とかさまざまな問題が出てくるだろう。政府が民間企業に自助を求めるなら、自助が可能になるような、それぞれの事業規模に応じた補償をしてもらわないと、需要が回復しても対応できない。
東 良和(ひがし・よしかず)
1960年 那覇市生まれ。1983年、早稲田大学社会科学部卒業後、日本航空勤務を経て米国コーネル大学ホテルスクール大学院に留学(ホスピタリティ経営学修士)。 1990年に沖縄ツーリスト株式会社入社、2004年に代表取締役に就任。