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出遅れJリート復調の理由とは=並木幹郎

現物不動産価格が堅調だ。不動産に投資するJリートは日本株に比べて出遅れ感があったが、年初以来高値を更新している。不動産価格上昇を売却益につなげる動きや、中小企業の間でのオフィス拡張の動きなど注目すべき機運が出ている。

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 コロナ禍の状況にあっても、金融緩和を背景に、現物の不動産価格は高水準にある。東証REIT指数は2021年7月13日の取引時間中に2200・02ポイントの年初来高値を更新するなど好調が続いている。年明けからは、国内株式市場に対する出遅れ感に加え、Jリートの業績に対するコロナ禍の影響の弱まりが好感された。投資主(株主)還元に積極的な姿勢を示し、1口(1株)当たり分配金の確保を明確にする銘柄が多く見られたことなどから、上昇ピッチが強まった。

下落する日本株
下落する日本株

 リートはオフィスビルや賃貸住宅などの不動産に投資する金融商品で、日本版の商品はJリートと言われている。日本では東京証券取引所に62銘柄が上場している。これらで構成されているのが東証REIT指数だ。

 日本では不動産投資というと物件価格の値上がりによる売買益のイメージがあるが、リートは現物物件から得られる賃貸収入から運営コストを差し引いた利益を配当(分配金)として投資家に支払う仕組みで、安定したインカム(収入)商品として位置付けられている。

 日本では現物不動産価格の動向を示すデータや統計が乏しい。しかし、現物不動産に投資するJリートの株価は、現物不動産価格を推測するものとして位置付けられている。

物件売却益を投資主に還元

 東証REIT指数の好調が示すように、コロナ禍で経済が打撃を受けた状況にあっても、現物の不動産価格の下落は小幅にとどまり、需要の強いエリアによっては上昇している場所もある。賃貸収入を生み出す不動産の資産価値への評価が根強いためだ。

 Jリートのひとつ、大和証券オフィス投資法人は20年12月に保有する31億円の帳簿価格のオフィスビルを42億円で売却した。今のように不動産が高水準にある状況下で、Jリートは積極的に資産入替または物件売却を行い、売却益を確保している。物件売却益は株主である投資主に還元し、1口当たり分配金の増額に活用している。

 1口当たり分配金の増額により、その銘柄の株価に変化がなければ予想分配金利回りは引き上げられることになる。物件売却益を計上する銘柄は、利回り重視の投資家から需要が集まりやすくなる。大和証券オフィス投資法人は物件売却の一部を内部留保として積み上げる見込みだ。コロナ禍において、物件売却による内部留保のほか、減価償却費(実際に支出しない会計上の費用であり内部留保できるもの)の一部を利益超過分配として分配金を上乗せするなど、分配金の安定化について言及するJリートは後を絶たない。

拡大する分配金スプレッド

 低金利が続く中、円の金融商品としてJリートは高い利回りを享受できる資産である。東証REIT指数の予想分配金利回りと同指数は逆の動きをするため、同指数が下落すると予想分配金利回りは上昇し、同指数が上昇すると予想分配金利回りは低下する。

 東証REIT指数の予想分配金利回りは、20年3月の急落時には7%近くまで上昇したが、最近の投資口価格の上昇に伴い継続的に低下しているが、それでも21年7月20日時点で3・33%となっている。国内の地方金融機関や外国人投資家からは、高い利回り商品としてのJリートが引き続き評価されている。予想分配金利回りと10年国債とのスプレッド(差)は拡大が続き、利回りの優位性が示されている。

オフィス拡張の動きも

 外出自粛の中、企業ではテレワークが浸透、また、余分となったオフィスを返す動きも見られている。東京都心5区(千代田区、中央区、港区、新宿区、渋谷区)の平均空室率は上昇傾向となっている。オフィスビル仲介大手の三鬼商事(東京・中央)が発表した21年6月の東京都心5区の空室率は6・19%と14年8月以来の高さだ。

 一方で、オフィス拡張の動きも出ている。医師向け医療情報サイトを運営するメドピアは「野村不動産銀座ビル」に入居していたが、事業拡大による人員増加で21年6月14日に近隣エリアに立地するビルに移転し、オフィス面積は2倍以上に拡大した模様だ。

 日本全国で従業員50名未満の中小企業は、全事業所の約97%に達しており、中小企業によるオフィス需要は根強いものがある。コロナ前はオフィス空室区画がほとんどなかったため、移転を諦めた中小企業が多かった。しかし、コロナ禍でテナントが退去・返床する動きが多く見られるようになり、また、賃料水準も低下したため、空室部分のある立地の良いビルには、移転したいと考えていた中小企業によるオフィスの統合・拡張移転需要が見られるようになってきたという。

今後はオフィスやホテル、商業施設も注目

 飲食店やレストランはコロナ禍でデリバリーを強化する一方、アフターコロナを見据えた業容拡大に動いている。外食大手のゼンショーホールディングスは大規模な出店拡大計画が報道された。

 大型モールだけではなく地域密着型の商業施設には買い物客が多い。ホテルでも、ワクチン接種の進展により4度目の緊急事態宣言解除後に見込まれる秋の行楽需要や年末・年始の旅行需要の取り込みなどから稼働率は底打ちし、観光客の戻りが期待できよう。

 Jリート市場の牽引役は、20年から21年前半にかけては巣ごもり需要で注目された物流施設や、賃料水準が下がりにくくディフェンシブ性のある住宅が中心であった。しかし、アフターコロナを見据え、経済正常化への回復への期待感から、今後はオフィスやホテル、商業施設の注目が強まると考えられる。

(並木幹郎・SBI証券アナリスト)

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