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「知識はなくてもいい」サントリーワイン吉雄社長が考えるワイン選びの美学(インタビュー後編)

自宅での五輪観戦用にもワインを押し出していきたいと話すサントリーワインの吉雄敬子社長
自宅での五輪観戦用にもワインを押し出していきたいと話すサントリーワインの吉雄敬子社長

今年1月、サントリーの事業会社で初の女性社長となったサントリーワインインターナショナル(SWI)の吉雄敬子氏に、サントリーでのワイン事業の位置づけ、そして新型コロナウイルスによる時代の変化が事業にどう影響しているのかを聞いた。

インタビュー前編はこちら>> “金麦の母”サントリーワイン・吉雄社長が語る「二律背反」を超えたワイン造りとは

―― 新型コロナウイルスの感染拡大がワイン事業に与えた影響は。

吉雄 就任後にコロナが収まることに期待していたのですが、いまだに終息は見えない状況です。ワインは飲食店をはじめとして、業務用顧客の存在が非常に大きいため、そういう意味では市場環境は厳しいと言えます。

 ただ、一方で家庭用ワインの消費が増えています。19年度の購入者の動向データを見ると、20代で16%増、30代は9%増となっています。若年層や40~50代において間口が拡大しています。20年の4~5月くらいからワインの販売は伸びていますが、その伸びはいまもなお継続しています。

―― ワインは特別な日に飲むなど、敷居が高い印象ですが。

吉雄 もともとワインは50~60代、ワインに詳しい人たちに飲まれていましたが、最近はカジュアル(気軽なもの)になってきています。要因は2つあります。

 1つめは家庭で過ごす時間が増えたことです。自宅で飲むことが増え、いままでは家ではビールやチューハイなど、決まったものしか飲んでいなかった人たちが、他のお酒も飲んでみようと、ワインを選ぶようになっています。

 もう1つは価格帯に幅が出てきたことです。1000円以下の金額で買えるワインも増えていますし、少し背伸びをすれば2000円くらいの少しいいワインも買えます。知識のあるなしに関係なく、興味を持ったら買って、飲んで、楽しむことができるワインが増えてきている。そのような意味では、ワインはお酒のなかでもポテンシャルが高い商品だと考えています。

―― 今年2月に、ワインを炭酸水で割ってレモンの風味を加えた「ワインサワー」を発売しましたが、これはコロナ前から商品開発が進んでいたのですか。

吉雄 商品開発は半年から1年の期間で先行して進めています。試作期間なども含めるともっと長いですね。2020年11月に発売した「赤玉パンチ」が好評だったので、赤玉パンチのファンでも気軽に飲めるカジュアルなものとして発売しました。

―― ワインサワーは女性向けという印象があります。

吉雄 パッケージの見た目がちょっと甘そうに見えてしまったかもしれないですが、意外に甘くない作りで、食事に合わせても負けない味になっています。もう少しこの良さを出したものを考えようという話も進めています。

 店頭でどうやって消費者に伝えるかが、この世界ではいちばん重要です。デザインの見え方の工夫も大きい。ワインであることと、カジュアルであるという両方のポイントが必要なのですが、カジュアル感が出過ぎてしまうと、ワイン好きの人が離れてしまうし、ワイン感を強く押しすぎるとカジュアルなものが飲みたい人たちに波及しにくい。消費者の意見もうまく取り入れながら、日々改善していこうと考えています。

「ワインはカジュアルなものになってきた」(吉雄社長)
「ワインはカジュアルなものになってきた」(吉雄社長)

 また、店頭でキャッチコピーなどを入れた販促ツールを付けたりして、消費者が買いに来たときに商品の特徴やメッセージを伝える工夫も重視しています。

―― コロナはエポックメーキングになるのか、それともどこかでコロナ前の元の状態に戻るのでしょうか。

吉雄 ある意味では戻ると思っています。たとえば、もう外で飲まなくなるのではという意見もありますが、一方で、早く外で飲みたい、飲ませてくれという声も非常に多い。外食の楽しさは日本の文化に根ざしたものなので、コロナの終息とともにある程度は外での飲みに戻っていくと考えている。ただ、急速に戻るかというとそうではなく、ゆっくり時間をかけてということになるでしょう。

 一方で、消費者はコロナをきっかけに家で飲むことの楽しさも覚えました。帰宅の時間が早くなった人も多く、それならば家でおいしいものを食べながらワインでも飲もう、という形に変わった。せっかく家庭でワインを飲むことへの間口が広がったので、その人たちをどうつなぎ留めるか、そこに向けてのマーケティングの準備をしていかなければならないと考えています。

―― 自宅で過ごす時間が増えたことに合わせた商品提案が、今後重要になってくると。

吉雄 いままで外食でメニューに入っているワインをなんとなく選ぶくらいだったけど、家でも飲んでみよう、と、ワインになじみ始めた人たちに、いかに難しく考えることなく自分の好きなワインを見つけてもらうか、そして、その種類を増やしていけるか、ということにつきます。

 知識のある人も、そうではない人も、みんなが小売店にワインを買いに来るので、それぞれに合った商品を提供していくことも必要です。グラン・クリュ(特級畑)のものがいいといいう人もいれば、出来上がるまでのストーリーを大事にする人もいる。選び方には人それぞれのスタイルがあるので、そういったことを上手に伝えて、ファンを増やしていくということを考えたいですね。

―― 五輪需要という意味での戦略は。

吉雄 自宅でのテレビ観戦が主体になるので、そういう意味では小売店にいろんな提案をしていきます。こういった夏場なので飲みやすいもの、すでに販売されている「酸化防止剤無添加のおいしいワイン」や「氷と楽しむおいしいワイン」などが好調なので、こういったものを押し出していきたい。あとは「日本ワイン」も、日本戦を応援しようというところで押し出していきたい。

―― 今後の家庭向け・外食向け、それぞれでの新商品の展開は。

吉雄 外食向けでは、新商品開発という形ではありませんが、客足が戻ってきたときに飲みたいものきちんと提供していくために、顧客としっかり話し合っています。タイミングを見計らいながら進めているという状況です。

 家庭向けには、詳細は明かせませんが、8~9月あたりにカジュアル・ワインで新商品を検討しています。また、冬には今までにない新しいものを出していくことも計画しています。特に11月はヌーヴォーやスパークリング系の需要期なので、そこに向けてさらに力を入れていき、プラスアルファでちょっと新しい製品も出していけたらと思います。

吉雄 敬子(よしお けいこ)

1968年生まれ、東京都出身、慶応義塾大学法学部卒業。91年サントリー入社。ビール事業部ブランド戦略部課長、サントリー食品インターナショナル食品事業本部ブランド戦略部部長、サントリービールブランド戦略部などを経て、2021年サントリーワインインターナショナル社長に就任。52歳。サントリービール在籍時に「金麦」を企画発案、サントリーの事業会社で初めての女性社長。

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