国際・政治

英、コロナ関連の国内外制限解除 9割のワクチン接種率が決め手=酒井元実

    予約なしで入れる接種センター。ワクチンのメーカーも自由に選択できる(2021年6月) 筆者撮影
    予約なしで入れる接種センター。ワクチンのメーカーも自由に選択できる(2021年6月) 筆者撮影

    「アルファ」と呼ばれる新型コロナウイルスの変異ウイルス(変異株)の発祥国とされ、約13万人のコロナ関連死者を出した英国。コロナ禍で深刻な影響を受けた同国だが、英政府は7月19日、「日常生活の制限措置」を解き、欧州各国でもいち早くウィズコロナでのノーマルな暮らしの道へと突き進むと決定した。アジアなど世界的には依然として感染拡大がやまず、英国自体も1日当たりの新規感染者数が5桁に達しているのに、どうしてこうした決断ができたのか。

    予約なしで接種完了

    スピーディーな接種の普及のため、病院以外の施設も接種顔場として活用された(ロンドン西部にある科学博物館、2021年5月) 筆者撮影
    スピーディーな接種の普及のため、病院以外の施設も接種顔場として活用された(ロンドン西部にある科学博物館、2021年5月) 筆者撮影

     解除を決断できた最も重要な要因は、世界トップレベルのワクチンの接種状況だ。世界に先行するスピードで昨年12月初旬から接種が開始。高齢者と医療従事者から始まり、その後、対象年齢を引き下げる形で接種を次々と進めてきた。6月中旬からは18歳以上全ての成人を対象に行っており、もはや希望しさえすれば、すぐに接種できる体制が整っている。

     筆者自身も、英国民医療サービス(NHS)として国が運営するウオークインセンターに行き、「予約なし、ワクチン銘柄自由選択」で接種を受けた。事前の煩雑な準備は不要で、気が向いたとき、都合がいいときに、会場に行けば打ってもらえるので負担はほとんどなかった。加えて、翌日にはNHSが運営する接種証明サイトにデータがアップロードされるなど接種後のサービスも行き届いていた。

     これは自国の大手製薬アストラゼネカなどが早い段階からワクチン開発に取り組んできたこと、米ファイザーやモデルナと早期に契約し、国民に十分行き渡るだけのワクチンの数量を確保できたという事情があるだろう。ワクチンの在庫に関する不安は接種開始から現在に至るまで一度も生じていない。こうした努力により、ロンドンを含むイングランドでの接種率は7月中旬時点で、「1回目を接種した18歳以上の国民」は9割近く、「2回目の接種を完了した18歳以上の国民」は66%に達している(図)。

     イングランドでは昨年3月以降、1年半近くにわたってロックダウン(都市封鎖)をはじめとする行動規制の導入と解除が繰り返されていたが、今回の政府の決定を受け、こうした法的義務を伴う制限は基本的に撤廃されることとなる。これまで義務だったフェースカバーの着用は期待・推奨へと移行。「公共交通機関の車内や日常的に会っていない人との会合などではマスクの着用が望ましい」とはされているが、感染対策は個人の責任に委ねられる。また、これまで企業には可能な限りの在宅勤務対応の推奨を求めてきたが、今後は企業が社員に対し出勤を求めることができる。

     規制緩和前は、厳格な在宅勤務の推奨や他人との適切な距離を取る「ソーシャルディスタンス」の徹底などの施策によって、人々の動きは厳しく制限されていた。オフィスが所在する都市部と郊外を結ぶ鉄道の乗車率は最も少ない時期で、コロナ前の平均のわずか1~2%まで下がるなど、経済的には大きく冷え込んだ。それが、このたび「屋内外を問わず、どのような環境でも、人数の制限なしで社交が認められる」ことになり、個人はもとより、あらゆる企業の経済活動やイベントの開催を含むエンターテインメント活動などもコロナ以前の通りに再開されるのだから大転換だ。

     緩和の影響はすでに出ている。イングランドではテニスのウィンブルドン大会とサッカーの欧州選手権(ユーロ2020)が陰性証明や接種証明などの提示を条件に、多くの観客を入れて開催された。街中でも大勢の市民がパブやパブリックビューイングなどに押しかけた結果、コロナの新規感染者数が増加するなど感染は拡大した。海外メディアなどはこのニュースを大きく取り上げたが、英政府としては前述したワクチン接種が順調に進んでいることで新規の感染者が増えたとしても重症者や死者は抑制され、医療崩壊に至る可能性は低いと判断し、規制緩和を選択したといえる。

    入国者の規制も緩和へ

     国内の規制解除だけでなく、対外的な規制も一気に緩和される。イングランドではワクチン接種済みの入国者については、感染が低程度な国(グリーンリスト)、中程度な国(アンバーリスト)からの入国者に対して隔離義務を撤廃すると決定した。こうした施策により、国外から英国へ渡航するハードルは一気に下がることになる。

     入国者に対する隔離については各国で対応が違うが、日本では重度に感染が広がる国からの渡航者には事実上の強制隔離である「指定ホテルでの待機」を求めている。例えば筆者が住む英国から日本に入国すると、6泊7日の隔離措置を受けなくてはならず、この隔離期間中はホテルの廊下にも出られない。しかし、欧米からの帰国者のほとんどはワクチン接種済みで、帰国便搭乗前と日本上陸時に陰性を確認しており、こうした人々から市中に感染が拡散されるリスクは低いと考えられる。水際対策が必要とはいえ、費用対効果に見合っているかは疑問だ。

     一方、欧州連合(EU)では7月から加盟国共通のデジタル新型コロナ証明書「ワクチンパスポート」が実用化され、より利便性の高い外国への渡航が実現している。日本でも発行が予定されているが、日本入国時の高いハードルである水際対策の緩和が見込めない限り、国際間の活発な交流再開は難しい。コロナの感染リスクを抑制するには規制を継続するのが望ましいが、経済的な観点から見ると話は違ってくる。実際、条件付きであっても思い切って国境を開いた国は経済のV字回復が目に見える形で実現している。ただし、東京オリンピック・パラリンピックが開催され、感染が再拡大し関係者によるウイルスの流入拡大などの懸念も広がる日本では、現状での水際対策の緩和の判断は難しいだろう。各国それぞれの事情は異なるが、感染拡大のリスクと経済再開のメリットをてんびんにかけ、決断をする時期に来ている。

    (酒井元実・在英ジャーナリスト)

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