経済・企業

平井卓也デジタル改革担当相インタビュー デジタル後進国打破する スマホ60秒で行政サービス

    武士道に通じる「デジ道」を目指す
    武士道に通じる「デジ道」を目指す

    インタビュー 平井卓也 デジタル改革担当相 デジタル後進国打破する スマホ60秒で行政サービス

     9月のデジタル庁発足を前にして平井卓也デジタル改革担当相に、日本の行政のデジタル化の展望などについて聞いた。

    (聞き手=稲留正英/中園敦二・編集部)

    ── デジタル庁発足を前に抱負は?。

    ■(昨年9月の)大臣就任時、菅義偉総理から規制改革の象徴・成長戦略の柱であり、いままでにない強い権限で縦割り行政を打破し、既得権益に切り込んでくれと言われた。私もベンダーロックイン(システム開発で特定メーカーの独自技術などが組み込まれ、他社の参入が難しくなること)について長年強い問題意識を持っており、今回を機に何とかしようということだ。

     今後、国と地方のシステム再構築を5年間でやる。いま、新しいアーキテクチャー(コンピューターのハード・ソフト両ウエアの基本構造や設計思想)を検討している。維持管理コストを抑え、新しい業務にもすぐ対応できるようにする。大構造改革であり、相当、野心的なプランだ。これが変わるだけで、日本は世界屈指のデジタル先進国になる。

     もともとデジタルインフラは品質などで他国に負けてはいない。日本人らしい細やかさで整備してきた。このアセット(資産)を使い切れていなかったことが“デジタル敗戦”につながった。

    ── 各国に後れを取ったのはなぜか。

    ■2001年にIT基本法が施行され、高度情報通信ネットワークを国民に提供した。ネットワーク環境は整備されたが、国も、地方もこの20年間変わらなかった。IT関連で年間、政府が8000億円、地方自治体が5000億円の投資をしている。国の場合、8000億円のうち、6割に当たる5000億円は維持管理コストだ。地方も比率的に同じぐらいだろう。この維持管理コストを下げようとサーバー数を減らしたが、古いシステムなので時代の変化に極めて対応力が弱い。

     もう一つ致命傷なのは、行政機関ごとにシステムがバラバラだったこと。ムダが多く、データをやり取りしたり、共有したりできなかった。このため、新しいサービスをまったく提供できず、今までの投資を生かし切れなかった。

    ── いいシステムがあれば、特別定額給付金配布やワクチン接種が早くできたという指摘もある。

    ■デジタル化の考え方を根本的に変えていたら、あんなことにはならなかった。20年前からIT担当大臣がいて、各省庁に対して調整機能はあったが、あくまでもアドバイザーであって、省庁が言うことを聞いてくれなかった。

     今までやっていたことに疑いを持って、業務のやり方を根本から考え直す。そこで今回、予算を一括要求、分配し、強い勧告権もある最強の司令塔が初めてできた。

    「抵抗勢力」には妥協しない
    「抵抗勢力」には妥協しない

    「すごい勝負に出る」

    ── それがデジタル庁?

    ■私の想定は来春ぐらいに創設かと思っていたら、菅総理から1年以内と言われ「スピード、スピード&スピード」だった。役人の知見だけだと不十分だから民間からトップクラスのエンジニアに来てもらっている。ただ、国内にはそのトップエンジニアの人数が少ないので兼業・副業、非常勤での勤務形態でも募集した。最初に募集した35人に対して約1400人の応募があった。「日本のデジタルを立て直す最後のチャンスだ」と言って給料が下がっても来てくれる人がいた。我々も圧倒されている。

     デジタル庁はコンパクトな500人の組織で、在宅勤務もできるので、住んでいる場所は問わない。民間からは計150人程度が入る。また、組織に局長、部長、課長などのポストを置かない。いままでの省庁にないフラットな組織だ。机も固定の席を設けないフリーアドレスにした。

    ── 予算は?

    ■最初の年は3000億円を計上して各省庁と分配するが、最終的には8000億円分差配することになる。維持管理費の5000億円分は、新しい価値を生む投資でないのでこれを限りなくゼロにするのがポイントだ。これからの投資が常に新しい価値を生むものに変わってくる。

    ── 従来の縦割りシステムが、すべてクラウドベースに?

    ■いまのシステムを「改善」するということではない。まったく新しいシステムに移し替えることだ。例えば、東京タワーのようながっちりしたシステムから、レゴブロックの結合体のようなものにして、状況変化に強く、柔軟なものにする。既存のベンダー(販売供給元)にとってはビジネスモデルを変えることになる。不安もあるだろう。だが、ここで変えないと生産性も上がらず、イノベーションも起きない。これは各省庁任せにはしないので、これから摩擦も起きるだろう。すごい勝負に出ているのが、デジタル庁だ。役所の中にも大手ベンダーにも「抵抗勢力」はいるから、私はたたかれるが、妥協はしません。

    1週間で緊急対応可能

    ── 国民にとっての利便性は?

    ■マイナンバーカードの機能がスマートフォンに搭載できるようになる。24時間365日、(申請手続きなど)行政サービスができる。スマホで60秒以内に一つのサービスが完結する体験ができるようになる。また、緊急事態が発生した場合は1週間で新たなサービスがスタートできるようにする。

     国民の使い勝手を考えない、従来の不親切な行政サービスは“お役所仕事”であり、国民はしょうがないと思っていただろう。

     だが、コロナ禍で「海外と日本は行政(のレベル)が違う。これを変えなければ」と感じた人が増加したことは間違いない。

     ワクチン接種証明も紙ベースだができるし、年内にはスマホでできたらいいと思っている。また、特別定額給付金を全国民に給付することはお勧めできる政策ではない。生活困窮者や子育て支援など、本当に困っている人を助けるべきで、(政府が特定の国民に直接的にアプローチする)プッシュ型でやれるようになる。

    ── 個人情報の漏えい問題も出てくるのでは?

    ■当初からセキュリティー対策を入れている。政府は情報を一元管理しない。国民間の格差を助長するようなデジタル化はしない。誰一人取り残さないところにイノベーションが生まれる。行政もデジタル化で効率化できるので、行政担当者がいればそこへ助けに行くこともできる。

     我々が目指しているのは、デジタルを意識しないデジタル社会だ。無理やりパソコンやタブレットを使えとかいう話ではまったくない。米国流でも中国流でもない、日本の武士道に通じる「困っている人は放っておかない」「道に外れたことはしない」とうことだ。まさに「デジ道」だ。

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