週刊エコノミスト Online日本人の知らないアメリカ

これだけ銃犯罪が増えてもなおアメリカが「銃禁止」を実現できない理由<前編>=中岡望

米ユタ州の店舗でライフル銃を選ぶ顧客 Bloomberg
米ユタ州の店舗でライフル銃を選ぶ顧客 Bloomberg

私たちには理解できない、世界一の超大国アメリカの全貌に迫る連載「日本人の知らないアメリカ」。7回目は、アメリカの銃規制問題を前後編の2部に分けて取り上げる。毎年1万5000人が銃犯罪で殺害されているにもかかわらず、なぜアメリカでは銃の保有を“禁止”する動きが見られないのか。その謎に迫る。

 日本的な感覚で考えれば、銃の保有を禁止さえすれば、銃犯罪は減るはずである。だが、アメリカでは銃の購入規制を強化するとか、保有条件を制限するという議論はあっても、銃の全面保有禁止を求める声は出てこない。なぜなのか。それを知るには、銃に関する歴史的、社会的な背景を理解する必要がある。銃規制問題は、社会を分断する深刻な問題の一つでもある。

死者が約2万人に達する銃社会アメリカの現実

 本題に入る前に、銃社会アメリカの現実を明らかにしておこう。

 毎年、非常に多くのアメリカ人が銃犯罪に巻き込まれ、死亡している。2020年には、銃乱射事件(mass shooting)は610件と過去最高を記録(Gun Violene Archive調査)。銃犯罪による死者の数は1万9411人に達した。2021年に入っても銃犯罪と被害者の増加傾向は続いており、1月1日から8月18日までに銃で殺害された人数は1万2868名、負傷者は2万5795名に達する。実に、1日に100人以上が銃犯罪の犠牲者になっているのである。

 アメリカの地方紙を見ていると、銃犯罪に関する記事が毎日のように掲載されている。本記事を執筆中の8月17日の一日に起きた銃犯罪の件数は65件あり、内訳を見るとほぼ全州で起きている。このうち乱射事件は1件(ニューヨーク市)と少なかったが、普通はもっと多くの乱射事件が起こっている。ちなみに17日の死者の数は26名、負傷者の数は35名。ニューヨーク市警察の発表によると、1月1日から7月18日までに、同市内で起きた銃犯罪による犠牲者の数は981名に達しており、昨年1年間の犠牲者(849名)を大きく上回っている。

 アメリカ人にとって、銃犯罪は重要な問題だ。ピューリサーチの調査(”Key facts about Americans and guns”, 2021年5月11日)では、銃犯罪について「重要な問題である」と答えたのは全体の48%だった。これは、公的医療保険制度(56%)、財政赤字(49%)に次ぎ、暴力犯罪(48%)と不法移民(48%)と並んで第3位の重要問題となっている。

アメリカでは国民の4割が銃を保有している

 こうした銃犯罪の頻発の背景には、銃保有が許されているアメリカのシステムがある。アメリカには、一般の人々が自由に銃を保有する制度が存在する。ギャラップ社の調査によると、2020年に銃を保有していると回答した人は42%に達している。かつては50%を越える時期もあったが、2000年の調査で34%にまで低下。その後再び、緩やかな上昇傾向が続いている。

 銃保有の内訳をみると、「自宅に銃を置いている」が44%、「個人的に所有している」が32%である。州によって銃規制の内容は異なるが、一部の州では公然と外で銃を携帯することが認められている。誰にでも見えるように携帯することを“open carry”といい、ガン・ベルトなどで他の人に見えるように銃を携帯することは、44州で法的に許可されている。堂々と路上で銃を携帯している西部劇のカーボーイの姿を思い浮かべてみるといい。

 公然と銃を携帯することを認める根拠は、銃を人に見えるようゆ保有することで、自分に対する攻撃を抑制できるからだと考えられている。なおopen carryに対して、他人に銃をみえないように携帯するのは“concealed carry”と呼ばれている。背広の内ポケットなどに銃を忍ばせて持ち歩くことである。

 世論調査によると、銃保有の理由について、63%は「個人的な安全を確保するため」と答えている。40%が狩猟のため、11%がスポーツなどのリクレーションのためで、仕事に関連するという回答も5%あった。

 州による保有銃の数も異なる。最も保有数が多いのはテキサス州(約59万丁)で以下、カリフォルニア州(約35万丁)、フロリダ州(約34万丁)、バージニア州(約30万丁)と続く。1000人当たりで保有数で多いのはニューハンプシャー州(47丁)、ニューメキシコ州(46丁)、バージニア州(36丁)である(いずれも2021年の統計)。

史上最高の銃販売数を記録した2020年

 2020年の銃の販売数は、過去最高を記録しだ。背景には、新型コロナウイルスの感染拡大による治安の悪化への懸念があるとも言われている。

 銃購入の際には、犯罪歴や病歴などのバックグラウンドをチェックする規制があるが、昨年は購入件数が多すぎてFBIのチェックが大幅に遅れる事態が発生した。2020年に銃購入の際に行われたチェックの件数は1276万1328件に達し、バックグラウンド・チェックで購入が認められなかった件数は30万件あった。これも過去最高の件数である。ただFBIのチェック漏れは3~4%あると言われており、それに不法に販売された銃を加えれば、実際の銃の販売数はさらに多いと推定される。

銃購入の際の購入者のバックグラウンド・チェック強化を求める声

 銃の保有数が増えれば、当然、犯罪に使われる可能性も高くなる。世論調査では、回答者の84%が銃犯罪を減らすために購入者のバックグラウンド・チェックを強化すべきであると答えている(Morning Consult調査、「Voters Are Nearly United in Support for Expanded Background Checks」、2021年3月10日)。

 別のギャラップ調査(2020年10月)では、規制を強化すべきであると答えた比率は57%、規制を緩和すべきが9%、現状のままで良いは34%であった。現状維持が多いのが意外である。時系列でみると、2000年5月の調査では、規制強化は62%、規制緩和が5%、現状維持が31%であった。20年間に規制強化支持が大きく減少している。

 一方、多くのアメリカ人は、銃規制強化によって銃犯罪が減少するとは思っていない。それを裏付ける調査がある。

 『ワシントン・ポスト』とABCの共同世論調査(2021年6月30日)によれば、銃規制強化で銃犯罪が減少するという回答は46%に過ぎない。過半数を超える53%は、銃規制には銃犯罪を減らす効果はないと回答。しかも効果がないという比率は、1999年9月の48%から2021年6月の53%へ上昇している。効果があるという回答は、逆に50%から46%に減っている。

 では何が銃犯罪を減らす効果的な対策かという問いに対して、75%の人が「貧困層の経済的な支援」と答えている。この回答は、多くの銃犯罪が黒人やヒスパニック系の貧困層で起こっていることを反映している。貧困問題を解決しない限り、本当の意味で銃犯罪は減らないのかもしれない。

党派対立で連邦議会での銃規制法案の成立は難しい

 銃規制の問題は、同時に政治問題でもある。党派によって意見は大きく異なる。

 民主党支持者の91%が銃規制強化を支持しているのに対し、共和党支持者では77%にすぎない。民主党支持者は銃規制強化を主張するのに対して、共和党支持者は警察の取り締まり強化といった治安活動の必要性を強調する。党派の立場の違いや考え方の違いが、銃規制問題をより複雑なものにしている。

銃規制を求めて連邦議会議事堂前に集結する人々 Bloomberg
銃規制を求めて連邦議会議事堂前に集結する人々 Bloomberg

 現在、連邦議会で「the Bipartisan Background Checks Act」や「the Enhanced Background Checks Act」などの銃規制強化法案が審議されているが、民主党と共和党で銃規制に関する考え方に違いがあることから、現状では法案が成立する見込みは薄い。

 民主党が多数を占める下院で成立しても、民主党と共和党の議席数が拮抗する上院では成立の目途がたっていない。ライフル協会など規制反対派のロビー活動も活発で、新たな銃規制強化は簡単な道のりではない。

 バイデン政権は、当初は銃規制に消極的であったが、リベラル派の突き上げもあり、銃犯罪問題に焦点を当てた犯罪防止戦略を公表している。2021年6月23日の「銃犯罪を阻止し、対応するための総合的戦略」である。

 同時に発表した声明では、「この戦略は暴力的犯罪を阻止する予防的措置を講じ、犯罪に使用される火器の拡大を阻止する政策を含む根本的な原因に取り組む」とうたい、具体的な政策として、銃の購入規制や警察組織に対する資金援助などを掲げた。ただ、保守派から反発する声も出てきている。どこまで実行性のある政策か疑問である。

 後編では、アメリカ人がなぜ銃保有を禁止しないのか、その本題に迫る。

後編はこちら>>

中岡 望(なかおか のぞむ)

1971年国際基督教大学卒業、東京銀行(現三菱UFJ銀行)、東洋経済新報社編集委員を経て、フリー・ジャーナリスト。80~81年のフルブライト・ジャーナリスト。国際基督教大、日本女子大、武蔵大、成蹊大非常勤講師。ハーバード大学ケネディ政治大学院客員研究員、ワシントン大学(セントルイス)客員教授、東洋英和女学院大教授、同副学長などを歴任。著書は『アメリカ保守革命』(中央公論新社)など

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