【週刊エコノミスト創刊100年キャンペーン実施中】いまなら週刊エコノミストオンラインをお申し込みから3カ月間無料でお読みいただけます!

資源・エネルギー

戻らない米国のシェール生産 原油価格は100ドル超え視野=岩間剛一

 原油価格が今春以降、上昇を続けている。米国の指標原油であるWTI原油先物価格は7月5日、1バレル=76ドル超と2018年10月以来、2年9カ月ぶりの高値水準を付け、その後も7月下旬時点では72ドル前後で推移している(図1)。新型コロナウイルス禍からの経済活動の再開といった需給の引き締まりという要因に加え、何よりこれまで原油価格の上値を抑えてきた米国のシェールオイル生産が活発化しないことも一段高を招いている。

 原油価格は年初に比べれば5割も上昇しており、需要面の要因として欧米先進国をはじめ新型コロナウイルスのワクチン接種が進み、景気回復に伴う石油需要が増加していることが挙げられる。IEA(国際エネルギー機関)、OPEC(石油輸出国機構)などの見通しにおいても、世界の石油需要は22年にはコロナ禍前の日量1億バレル程度の水準に戻ることが見込まれている。

 サウジアラビアを中心とするOPECと、ロシアなど非OPEC加盟国による「OPECプラス」は7月18日、8月から協調減産幅を毎月日量40万バレルずつ縮小することで合意した。UAE(アラブ首長国連邦)が協調減産延長に反対したことで協議は一時決裂しており、今回の合意を受けてWTIは一時、1バレル=65ドル前後まで下落した。しかし、その後は再び上昇基調をたどっている。

原油生産の回復が鈍い……(テキサス州) (Bloomberg)
原油生産の回復が鈍い……(テキサス州) (Bloomberg)

 こうした足元の需給の要因に加えて、根本的には米国のシェールオイルの生産量が伸びていないことが価格上昇を引き起こしている。頁岩(けつがん)層から採掘する米国のシェールオイル生産は、1バレル=100ドル前後の価格高騰が続いた10年ごろから本格化し、18年には米国がサウジやロシアを抜いて世界最大の産油国となる原動力となった。

 米国のシェールオイル生産が本格化して以降の動きを振り返ると、WTIが1バレル=50ドルを超えるとシェールオイル生産が増加し、国際石油需給が緩和して原油価格の上値を抑えるというサイクルが繰り返されてきた。米国のシェールオイルの開発コストは、条件が良い鉱区の場合は1バレル=30ドル程度であり、50ドルを超えれば生産企業に利益が出るためである。

気候変動対策の強化

 しかし、米国の原油生産量は19年11月に日量1286万バレルと史上最高に達した後、コロナ感染拡大による原油価格の暴落もあり、今年2月には日量977万バレルまで減少した(図2)。今年7月時点でも原油価格が上昇しているにもかかわらず、日量1150万バレル程度に低迷している。また、リグ(新規油田開発のための掘削装置)稼働数も今年7月16日時点で380基と、コロナ禍前の半分程度に過ぎない(図3)。

 米国のシェールオイル生産企業が新規油田の開発に慎重なのは、借入金の返済など財務の健全化を優先し、新規投資を抑制していることが要因に挙げられる。これまで原油価格上昇時は、利益よりも量を追い求め、借入金を増加させてきたシェールオイル生産企業だが、現在は増加した現金収入を内部に留保し、自己資本比率の引き上げを図っている。

 その背景には、今年1月に発足したバイデン新政権の気候変動対策の強化がある。バイデン大統領は就任後、温室効果ガス排出削減を目指す大統領令に署名し、政府保有地における新規のシェールオイル開発を規制するなどした。生産企業には長期的には新規油田が不良資産となる懸念が高まっており、大手から中堅・中小に至るまで開発投資を抑制している。

 金融機関や投資家も、原油価格上昇による収入増加を、新規油田開発ではなく財務の健全化や株主還元に充てるよう圧力を強めている。また、米石油メジャーのエクソンモービルは今年5月の株主総会で、アクティビスト(物言う株主)が提案した脱炭素派の取締役3人の選任を余儀なくされるなど、生産企業にとって気候変動問題が大きな逆風となっている。

天然ガスも上昇傾向

 折しも、今年2月のテキサス州の歴史的な寒波に続き、7月には米国西部に記録的な熱波が襲来。冷房用の需要が急増したことで、原油価格の影響を受けやすいニューヨーク天然ガス先物価格は18年12月以来となる百万BTU(英国熱量単位)当たり3・8ドル超えを記録した。自動車のエアコン利用によるガソリン需要も増加しており、米国のガソリン小売価格は14年以来となる1ガロン(約3・8リットル)当たり3ドル超えとなっている。

 日本は世界最大の液化天然ガス(LNG)輸入国であり、米国のシェールオイル・ガス生産がLNGの安定調達に寄与していた。しかし、コロナ禍による供給減の最中を襲った今年の歴史的な寒波では、暖房需要の急増により国際的なLNG市場の需給も逼迫(ひっぱく)し、アジア向けLNGスポット価格は一時、百万BTU当たり30ドル超と史上最高値を記録。日本では新電力の小売価格暴騰にも見舞われた。

 米国のシェールオイル開発の抑制は、国際石油市場にさまざまなリスクももたらす。環境保護派の圧力が小さいOPECプラスの生産シェアが高まれば、国際石油市場における主導権が移り、中東などの地政学リスクは格段に高くなる。OPECプラスの首脳も「米国のシェールオイルの台頭を気にすることなく、協調減産の議論を行うことができる」と表明している。

 米バンク・オブ・アメリカは今年6月のリポートで、来年には原油価格が1バレル=100ドルを超える可能性があると指摘するなど、14年以来となる100ドル時代の再来を予測する動きが強まっている。また、こうした予測を背景に、市場では原油先物への買いも入れやすくなっている。今夏に米国でガソリン需要が急増したりすれば、100ドル超えがいよいよ視野に入ってくる。

(岩間剛一・和光大学経済経営学部教授)

インタビュー

週刊エコノミスト最新号のご案内

週刊エコノミスト最新号

10月11日号

止まらない円安 24年ぶり介入第1部 市場の攻防15 亡国の円買い介入 財政破綻を早める ■編集部17 1ドル=70円台はもうない ■篠原 尚之 ドル高が揺さぶる「国際金融」 ■長谷川 克之18 円安 これから本格化する内外金利差の円売り ■唐鎌 大輔20 国力低下 米国の強力な利上げはまだ続く 円 [目次を見る]

デジタル紙面ビューアーで読む

おすすめ情報

編集部からのおすすめ

最新の注目記事