昨年は9・3万人が死亡 処方薬が身近な米国社会の薬物過剰摂取問題=峰尾洋一
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昨年は9.3万人が死亡 薬物過剰摂取生む意識=峰尾洋一
米疾病対策センター(CDC)は7月、2020年に米国で薬物過剰摂取により死亡した人が前年比30%増の9万3000人に達したと発表した。年間としては、過去最高の人数である。急増の理由として、鎮痛剤「オピオイド」の普及、リハビリ施設など薬物対応策が新型コロナウイルス感染拡大によって機能不全に陥ったことなどが挙げられる。オピオイドは、手術、末期がんなどの激痛の緩和に使われる。鎮痛と同時に多幸感をもたらし、依存性や習慣性のリスクがある。
一方で、コロナ感染が拡大する以前の19年も7万1000人超が薬物過剰摂取で死亡している。コロナの影響がなくても、これだけの死亡者がいたことは注目に値する。では、なぜ米国はこれだけの薬物過剰摂取が発生するのだろうか。
米国人の生活には薬の服用が根付いている。日本のように「薬に頼る」や「薬漬け」といった後ろ向きの発想はなく、薬を服用し症状を抑え質の高い生活をすることは良いこととされる。
米国では市販薬のみならず処方薬も自分で選ぶ。処方薬のテレビコマーシャルも多い。消費者がコマーシャルなどを見て何を服用したいか決める。相談を受けて、調べて処方箋を書くのが医師だ。消費者にとって処方薬は身近な存在だ。
処方制度も一因
医療制度の影響もある。米国には頭痛、腹痛、目の調子からけがまであらゆる症状を診る一般診療の医師と、細分化された専門医が存在する。専門医にはすぐに予約・診察をしてもらえない場合がある。自分が加入する医療保険が使えない場合もある。原因が特定できない痛みへの対処として、脳への痛みの伝達を遮断し、痛みの…
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週刊エコノミスト
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