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週刊エコノミスト Online 年収1000万円の呪い

リーマン・ショックの生き残り世代が震撼する川崎重工の「脱年功賃金」=深野康彦

コロナ禍でも人々の働く意欲は高い Bloomberg
コロナ禍でも人々の働く意欲は高い Bloomberg

働き方が、新型コロナウイルス禍で激変している。日本を代表する大手重工業企業の一角・川崎重工業は、年功序列賃金を廃止し、「実力主義」へとかじを切った。2008年のリーマン・ショックで生き残ったベテラン社員も今度こそ逃れられない、残酷な時代がやってきた――。ファイナンシャルプランナー、深野康彦氏のリポートを前後編、2回にわたっておとどけする。

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 還暦が視野に入った筆者が大学を卒業して就職した当時、年収1000万円以上がサラリーマンの一つステイタスの時代だった。翻って現在は、収入が増えれば増えるほど責任が重くなり、会社に滅私奉公しなければならないという従来の「出世街道」が嫌われ、“そこそこの年収”で生活できれば充分と考える若年層が増えているそうである。

 ところで年収1000万円を超えるサラリーマンはどのくらいいるのだろうか。国税庁が毎年公表している「民間給与実態統計調査(2019年)」によれば、1年を通じて勤務した給与所得者5255万人のうち、年収1000万円超は256万1000人、率にして4・8%に過ぎない。かなり少ないと思われるかもしれないが、この調査に公務員は含まれていない。また、「世帯収入」ではなく個々人の収入で判断されているから5%に満たないのである。現在は「片働き」より「共働き」の世帯の方が多いことから、夫婦それぞれの年収が1000万円に満たなくても、合算すれば1000万円超という世帯が多数あるので、個々人の年収1000万円超の割合は、肌感覚より少なく感じられるわけだ。

年収300万以下は4割

 年収1000万円超の割合は、過去20年で見ると概ね4~5%で推移している。その一方で、年収300万円以下の割合は概ね40%前後で推移しており、大幅に変化したようには感じられない。

 年功序列賃金は崩壊しつつあるなどといわれるが、年齢階層別の平均給与を見ると最も多いのは50歳から54歳の525万円、男性だけに限れば55歳から59歳の686万円。平均給与から見る限り、年功序列賃金制度は継続しているといえるが、新型コロナウイルスにより働き方は一変。リモートワークを始めとする在宅ワークにより、はからずしも使えない(たいした仕事をしていない)高賃金労働者が顕在化してしまったのである。企業側にしても急激な業績悪化に直面、働き方改革を進めるにあたり賃金改革も待ったなしの状況となった。

コロナ離職をするのは優秀な社員

 コロナ後を見据えれば、優秀な社員ほど離職してしまう可能性が高まる。企業は成果主義で賃金を支払い、DX(デジタル・トランスフォーメーション)に即した効率的な働き方を導入しなければならない。言い換えれば、使えない高賃金層の給与を引き下げ、優秀な若手社員の収入を上げる方向に改善を行う必要があるというわけだ。

 実際、川崎重工が21年7月から年功序列賃金を廃止し、実力重視の賃金制度の導入を表明した。追随する企業がどれだけ現れるのかが、コロナ後を占う試金石になると思われる。

 賃金改革が行われた場合、もっとも影響があるのは50歳代だろう。平均給与が高いだけでなく、50歳代は40歳代以下と比較すると勤労者の人数がかなり多い。人数を述べなくても人口構成が「逆ピラミッド型」とよく指摘されていることから、50歳代、場合によっては40歳代を含む世代の賃金の改革、あるいは早期退職に踏み切る可能性は高いと思われる。

上乗せ退職金に目がくらむと…

 08年のリーマン・ショック以降、企業は早期退職の導入にためらいがない。当時、「先輩社員は大変だな」と思っていた世代も、今回の早期退職では、その対象になっていることを忘れてはならない。10年一回りといわれるが、時の経過(歳を重ねる)は残酷といわざるをえない。

 対象世代は、年金を受け取ることができる65歳までの生活設計を早急に見直す必要がある。生活のダウンサイジングは、待ったなしの状況が迫っているのである。上乗せされた退職金に目がくらんで、早期退職の応募に安易に手を上げるのは得策ではない。50歳代という年齢を考えると、期待する収入が得られる転職先が見つかるのは、優れた仕事力を持っている一部の人に限られる。つぶしが利かないようであれば、今の仕事にしがみつく方が賢明だろう。年下の上司であったとしても、プライドを捨てて滅私奉公するのが、サラリーマンであるということだ。

深野 康彦(フィナンシャル・リサーチ代表)

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