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アフガン戦争敗北の謎に迫る② アメリカの大統領たちはなぜ間違った判断をし続けたのか…引き継がれた過ち=中岡望

    オバマ大統領はタリバンとの戦いを軽視した Bloomberg
    オバマ大統領はタリバンとの戦いを軽視した Bloomberg

    私たちには理解できない、世界一の超大国アメリカの全貌に迫る連載「日本人の知らないアメリカ」。8回目は、アフガン戦争敗北の謎に迫る。前編に引き続き、オバマ以降の大統領たちの「間違った判断」について解説する。

    前編はこちらから>>

     オバマ大統領のアフガン政策は迷走した。

     軍の指導部はオバマ大統領に対し、タリバンと対抗するために増派を求めた。タリバンを一気に攻撃することで、交渉の場に引きずり出し、アメリカの望む内容の休戦協定を締結できると主張した。

     2009年8月30日、アフガン司令部はホワイトハウスに66㌻の極秘報告を提出している。その中で、必要な増派は1万人から4万5000人であること、もし増派が実現しなければ「最終的に戦争は失敗に終わる可能性がある」ことなどを指摘している。

     だが、オバマ大統領は増派に懐疑的だった。CNNのインタビューでは、「我々は正しい戦略を追求しているのだろうか」と、アフガン戦略そのものに疑問を呈した。

     一方で、状況に対するオバマ大統領の認識は、ブッシュ大統領と変わらなかった。CBSのインタビューで、オバマ大統領は「政府の最優先事項は、アルカイダやテロ組織の攻撃からアメリカを守ることだ」と語っている。

     ただ、「やみくもに増派したからといって、アメリカが安全になるわけではない」「状況を把握するためには、もっと時間が必要だ」という主張だった。

    タリバンとの戦いを軽視したオバマ大統領

     2009年9月13日、オバマ大統領は関係閣僚やスタッフを招集し、アフガン戦略について議論した。バイデン副大統領はアフガン戦略の抜本的見直しと派兵規模の段階的縮小を主張したが、オバマ大統領はこれを拒否している。最終的に採用されたのは、「アフガニスタンをタリバンから守るより、パキスタンと協力してビン・ラディンの捕縛とアルカイダの巣窟の攻撃を優先すべきだ」との意見だった。

    アフガニスタンでパトロール活動をする米兵 Bloomberg
    アフガニスタンでパトロール活動をする米兵 Bloomberg

     『ニューヨーク・タイムズ』は、オバマ政権のアフガン戦略の焦点は「タリバンに対抗する反内乱戦略(counter-insurgency)からアルカイダに対する反テロ戦略(counter-terrorism)へと変化していった」と説明している(”Obama Considers Strategy Shift in Afghan War”, 2009年9月22日)。要するに、「アルカイダはもうアフガニスタンには存在しない」との考え方から、タリバンとの戦いを軽視するようになったのである。

     オバマ大統領は2009年12月1日、ウエスト・ポイントで行った演説で、約3万人のアフガニスタンへの増派を発表し、同時に2011年7月までに撤退を始めるとの計画を明らかにした。この計画のポイントは、アメリカ軍の撤退時期を明確にした点にある。オバマ大統領は、新戦略を「テロリストに対する、より強力で、より賢明で、より総合的な戦略」と呼び、「我々はテロリストを打ち破る」と宣言した。

    オサマ・ビン・ラディン殺害で政策転換

     反テロ戦略は奏功する。2011年5月、アメリカ軍は、パキスタンに身を隠していたビン・ラディンを殺害。オバマ大統領はビン・ラディン殺害を称賛し、安全保障上の責任をアフガン政府に移譲し、2014年12月までにアフガニスタンでのアメリカ軍の軍事行動を終了すると発表した。

     オバマ大統領は、タリバンが勢力を増しているアフガニスタンの国内状況を無視して、ビン・ラディン殺害によって反テロ戦略は成功を収めたと評価したのである。

     タリバンの勢力拡大は続き、オバマ大統領は撤退計画の白紙撤回に追い込まれた。ウィリアム・コーエン元国防長官は「オバマ大統領の問題は(アフガン内乱という)ボールから目を放してしまったことだ」と語っている(上記『ニューヨーク・タイムズ』)。

     オバマ大統領は、アフガン戦争の本質を理解できず、ただ単にビン・ラディンを主要な敵と見誤り、アフガン内戦はアフガン政府の問題とした。このことが、アフガン戦争の最大の敗因のひとつになったのである。

    オバマ大統領のアフガン情勢に関する嘘

     オバマ大統領は2014年12月28日、「アメリカ軍兵士が甚大な犠牲を払ったおかげで、アフガニスタンにおける私たちの戦闘は終焉を迎えようとしている」との声明を発表。アフガニスタンにおける軍事活動を終わらせ、アフガン軍を訓練、支援するために少数のアメリカ兵をアフガニスタンに留めると付け加えた。さらに、2016年末までに残ったアメリカ兵を撤退させると約束した。

     だが、アフガン情勢は実はそれほど楽観的ではなかった。タリバンは攻勢を強め、占領地域を拡大していく。『ワシントン・ポスト』は、オバマ大統領の声明について「20年に渡る戦争で指導者が広めた最も悪質なごまかしであり、嘘であった」と批判している(Washington Post, “The grand illusion: Hiding the truth about Afghanistan war’s ‘conclusion’,2021年8月12日)。

     アフガン戦争は終焉を迎えるどころか泥沼化し、アメリカはさらに大きな犠牲を払うことになる。

    オバマ大統領はアフガン情勢について嘘をつき続けた Bloomberg
    オバマ大統領はアフガン情勢について嘘をつき続けた Bloomberg

     なぜオバマ大統領は国民に嘘をついたのか。連続テロ事件当時と違い、多くの国民はアフガン戦争に懐疑的になっており、そうした世論に配慮したのかもしれない。2014年12月に行われたワシントン・ポストの世論調査では、アフガン戦争を戦う価値があると答えたのはわずか38%に過ぎなかった。ブッシュ大統領にテロリストへの「軍事的報復」を求めた時とは対照的であった。

     その後もオバマ政権は、アフガン情勢について国民に楽観的に伝え続けた。2015年2月にアフガニスタンを訪問したカーター国防長官は「事態は大きく変わり、良い方向に向かっている」と記者会見で語っている。

     だがタリバンとの戦いは激化し、アメリカ兵士が死亡するケースが増えていく。結果的に、オバマ大統領はアフガン撤退という公約を果たせず、「次にどうするかは次の大統領に委ねる」と責任を放棄したのである。

    条件交渉を目指したトランプ政権

     2017年、トランプ大統領の就任によって、政権は再び共和党に移る。トランプ大統領は選挙運動中、アフガン撤退を主張していた。「アメリカ・ファースト」の外交政策から、アフガニスタンを放棄するつもりであった。

     大統領就任後の3月、トランプ大統領はアフガニスタンからのアメリカ軍撤退を命じた。だが軍の反対により、すぐに撤退を撤回することになる。トランプ大統領は「当初の直観では撤退だった。自分は直観に従うのが好きだ。だが大統領の椅子に座ってみると、決断は変わってくる」と理由を述べている。加えて「急激な撤退は、アルカイダを含むテロリストにとっての真空地帯を生み出す」とも語っている。

    軍の上級指導者とブリーフィングするトランプ大統領 Bloomberg
    軍の上級指導者とブリーフィングするトランプ大統領 Bloomberg

     アフガン戦略に関し、トランプ大統領はオバマ大統領との基本的なスタンスの違いを示した。タイム・テーブルは設定せず、政治的解決を狙った、条件ベースの交渉を行うと述べている。

     だが、アフガン情勢は悪化していく。2019年には、アフガニスタン駐留のオースチン・ミラー総司令官が「両者ともに最終的に軍事的勝利を収めることは不可能だ」と語っている。アフガン情勢は軍事的に膠着状況に陥ったのだ。同じく2019年の4月、トランプ政権のマックマスター国家安全保障補佐官は、ウエスト・ポイントでの討論会で「アメリカはアフガニスタンで健全な戦略を維持できなかった」と、軍事政策の失敗を認める演説を行った。

     16年以上戦ってきたにも関わらず、2018年の段階でアメリカ軍とアフガン軍が支配していた地域は全土の50%に過ぎなかった。

    タリバンと休戦協定の交渉を始めたトランプ大統領

     そうした中、トランプ政権はタリバンと休戦協定を巡る交渉を模索し始める。紆余曲折を経て2020年2月29日、アメリカはタリバンとの間で「アフガニスタン平和協定」(別名「ドーハ合意」)を結ぶ。

     この合意には、次のような内容が盛り込まれた。①アメリカと同盟国はアフガニスタンから完全撤退する、②タリバンはアメリカと同盟国に脅威を与えない、③タリバンはアルカイダを含む集団、個人がアメリカの安全保障に脅威を与えることは許さない、④タリバンはアフガニスタン領土でアメリカと同盟国の安全に脅威を与える行為は許さない、⑤アメリカに脅威を与える者はアフガニスタンから排除する、⑥タリバンはアメリカに脅威を与える者にビザやパスポート、旅行許可などを発行しない――。

     アメリカ政府は、協定発表から14か月後に撤退することを約束。協定成立後135日以内にアメリカ軍を8600名にまで減らすこと、残りの兵士も9カ月半以内に撤退を完了することなどを合意に盛り込んだ。さらに、アフガン政府は5000名の囚人を釈放する、という条件も設けられた。

     こうして、アメリカは「ドーハ協定」に基づき、2021年5月1日までに完全撤退することになった。共和党全国委員会は、この協定を“歴史的平和協定”と称賛した。

     だがドーハ合意は、民主党だけでなく共和党の中からも、「恥ずべき合意」「無条件降伏協定」などと批判を浴びせかけられた。

     ブッシュ政権の元国家安全保障会議のメンバーで、現在は保守派のシンクタンクのアメリカン・エンタープライズ・インスティチュートのディレクターを務めるKori Schakeは「トランプ大統領がタリバンと結んだ合意は最も恥ずべき外交交渉である」と厳しく批判している(New York Times, “What Trump’s Disgraceful Deal with Taliban has Wrought”, 2021年8月28日)。

     同氏は、協定の中に、タリバンに協定を順守させる仕組みが組み込まれていないことを問題視する。5000名の囚人の釈放が、アルカイダを強化する可能性があることなども指摘している。

     また、当事者であるアフガン政府が交渉に加わっていないという問題もあった。アフガン政府の頭越しに行われた交渉だった。アメリカ軍撤退の後、アフガニスタンがどうなるか不明のままであった。

    バイデン大統領に選択の余地は少なかった

     2021年1月に就任したバイデン大統領は、「ドーハ合意」を遵守するのか、廃棄するのか、選択を迫られた。8月14日の声名で、次のように述べている。

     「私は大統領になったとき、安全に軍隊を撤退させるために撤退期限を若干延長して合意を履行するのか、あるいは、再び他国の内戦を戦うために軍隊を派遣して軍事力を強化するのかという選択を迫られた。私は、アフガン戦争を指揮する4番目の大統領である。この戦争を5番目の大統領に引き継ぐつもりはない」

     “永久戦争”に自分が終止符を打つという決意表明である。

     さらに、「アフガニスタンにもう1年、あるいは5年、軍事的に関与し続けても、アフガン軍が自国を守る能力と意思がなければ、何も変わらないだろう。他の国の内戦にアメリカが際限なく関わることは、自分には受け入れられない」とも語っている。

     要するに、自助能力も意思もないアフガン政府への支援を継続するのは不毛だと言い切ったのである。

     5月1日の撤退期限を目前に控え、バイデン大統領は4月14日、期限を9月11日に延長すると発表、その後、8月31日へと変更した。タリバンは、この日を“レッド・ライン(越えてはならない一線)”とした。もはやバイデン大統領に選択の余地はなかった。

     タリバンは、撤退に協力する立場を取った。事実、撤退を阻止する軍事的な行動は取っていない。

    アフガニスタン戦争終結に向けて声明を発表するバイデン大統領 Bloomberg
    アフガニスタン戦争終結に向けて声明を発表するバイデン大統領 Bloomberg

     にも関わらず、撤退は混乱を極め、一部のアメリカ人や国外脱出を望んだ多くのアフガニスタン人が取り残された。そして撤退に伴い屈辱的ともいえる状況が展開された。

     バイデン政権の関係者からは、トランプ政権からの移行の際、「ドーハ合意」の詳細な内容を含め、何の引き継ぎも行われなかったとの批判の声も漏れた。予想より早くタリバンがカブールに入城したことで、混乱したとの指摘もあった。

     だが、政権が発足して既に7カ月が経過しており、十分な時間はあったはずである。

    残された今後の問題は…

     こうして、20年にわたるアフガン戦争は幕を閉じた。

     誤った判断から不毛な戦争を始め、戦争にかかわった4人の大統領は、いずれも現実を直視することなく、多くの代償を払ってきた。この戦争を通して、アメリカは一体何を学んだのだろうか。

     アメリカや同盟国は、脱出してきたアフガニスタン人をどのように受け入れるのか。今後のアメリカ外交政策はどう変わって行くのか。あるいは、タリバン政府の下でのアフガニスタンの将来はどうなるのか。アメリカの外交政策はどう変わっていくのか。問題は山積している。

     次回は、「なぜ圧倒的な軍事力を持つアメリカが弱小なタリバンにかくも無残に敗北を喫したのか」を分析する。

    中岡 望(なかおか のぞむ)

    1971年国際基督教大学卒業、東京銀行(現三菱UFJ銀行)、東洋経済新報社編集委員を経て、フリー・ジャーナリスト。80~81年のフルブライト・ジャーナリスト。国際基督教大、日本女子大、武蔵大、成蹊大非常勤講師。ハーバード大学ケネディ政治大学院客員研究員、ワシントン大学(セントルイス)客員教授、東洋英和女学院大教授、同副学長などを歴任。著書は『アメリカ保守革命』(中央公論新社)など

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