週刊エコノミスト Online

ライオンの新規事業に1000人超が殺到 高まる副業人気

リモートワークの広がりで副業もしやすくなっている
リモートワークの広がりで副業もしやすくなっている

退職や転職のようなリスクをとる必要のない副業の人気が高まっている。日用品大手ライオンの新規事業立ち上げには1649人が応募。三菱地所では社員による副業が40件あるという。リモートワークの導入が広がり、「朝から晩まで会社で長時間労働をしたい」という人が減少し、その時間を副業に充てたいという人が増えている――。

特集「年収1000万円の呪い」はこちらから>>

「副業の募集には1000人以上の応募がくることもある。年収1000万円以上など高額所得者ほど副業に関心が高い。新たなキャリアにつなげたいとの狙いがある」。転職サービスのビズリーチ(東京都)のビジネス開発統括部・伊藤綾統括部長は語る。

 ニッセイ基礎研究所の久我尚子上席研究員は、副業への関心の高まりの理由について「コロナ禍で収入の減少や仕事の不安に直面する中、副業で収入の目減りを防ぎたいという狙いがある」とみている。同研究所の調査では、コロナ禍で収入が減少した人は全体の4分の1に上っており、副業への関心が幅広い収入層で広がっている。現状では、「副業や兼業はしていない」が全体の85・3%と圧倒的に多く、副業や兼業をしている人は15%弱と少数派だ。ただ、副業・兼業を始めたきっかけについては、コロナ禍と関係している人が4割超となっている。

 企業側の副業ニーズも高い。専門人材を採用した副業制度の導入による新規事業の計画が続く。2020年5月にライオンが新規事業立ち上げに向けて5人の副業人材の社外募集を行ったところ「1649人の応募があり、8人が採用になった」(ライオンのビジネス開発センター統括部、高橋潤主任)。ライオンは飲食店のメニューをオンライン注文して持ち帰る事業などの新規事業を実現した。三菱地所は都内のリラクゼーション施設運営の新事業について、コロナ禍前の19年10月にブランディングとマーケティング担当者を各1人ずつ募集し、それぞれ約300人ずつの応募があった(三菱地所人事部の中尾勇祐氏)。

「有名企業で働きたい」

 副業のメリットは目先の収入面だけではない。「みんなが知っているような企業の新製品開発や新規ビジネスには、誰でも関わってみたいと思うだろう」と久我氏は語る。新たな経験、人脈、視野が広がり、キャリア形成にプラスになるためだ。一方で、大手企業やキレイなオフィスで副業をするのは困難だ。久我氏は「日本は賃金水準や雇用環境が良い仕事ほど、働く人が固定化されているという事情がある。大企業の副業で働くのは少数派だ」と述べる。ライオンや三菱地所の倍率数百倍にはこうした事情もある。

石川県企業説明会の応募は8割が首都圏

 地方の企業が募集する副業にも関心が広がっている。リクルートが石川県と共同で実施した県内企業の副業説明会には60名の定員に対し、114名の応募があった。リクルートの広報担当・福田愛氏によると「参加者の8割超が首都圏都県(東京・千葉・埼玉・神奈川)からだった」という。

働き過ぎと情報漏洩を防ぐ

 関心の高さとは裏腹に、課題もある。副業への「取り組み過ぎ」を防ぐことだ。副業に対する期待感が高い人ほどのめり込む場合がある。そうならないように副業解禁の企業は就業規則を設けている。三菱地所は本業以外の副業時間を月上限50時間、ライオンは、副業は就業時間外に行うものとして、副業における労働時間は週20時間未満としている。健康管理以外にも、企業の情報管理リスクもある。守秘義務を徹底しないと社外に情報が漏れる可能性もある。そのために競合他社での副業は禁止しているケースが多い。

三菱地所では社員の副業が40件

 働き方は必然的に変化した。コロナ禍でテレワークが半強制的に導入され、世界では週休3日の導入も広がっている。スペインの通信大手テレフォニカは国内の従業員の最大10%を対象に週休3日制を試行していると報道されている。日本政府も6月に閣議決定した経済財政運営の指針「骨太の方針」に、「選択的週休3日制度」の導入を企業に促すことを盛り込んだ。週休3日は仕事量と収入の減少につながると心配する声がある一方で、それをチャンスと捉える人達が出てきている。

 三菱地所では、月平均2~3件の新たな副業申請があり、現在40件程度の副業を認めている。人事担当の中尾氏は社員の副業の内容を「趣味のスポーツインストラクターや、不動産や建築の資格を活かした仕事、地方企業自治体のコンサルティングなどさまざまだ」と話す。

 副業を通じて複数の働き口を持つことは、働き手にとりストレス解消にもなる。副業が成功すれば成功体験が生まれて自信ができ、さらに本業にプラスの影響が出る可能性もある。会社に縛られている感覚も薄れて、自分の得意分野への関心が自発的に高まる。雇用がずっと固定化されていた日本で、献身的ではない柔軟な働き方が出始めている。(桑子かつ代=編集部)

インタビュー

週刊エコノミスト最新号のご案内

週刊エコノミスト最新号

4月9日号

EV失速の真相16 EV販売は企業ごとに明暗 利益を出せるのは3社程度■野辺継男20 高成長テスラに変調 HV好調のトヨタ株 5年ぶり時価総額逆転が視野に■遠藤功治22 最高益の真実 トヨタ、長期的に避けられない構造転換■中西孝樹25 中国市場 航続距離、コスト、充電性能 止まらない中国車の進化■湯 [目次を見る]

デジタル紙面ビューアーで読む

おすすめ情報

編集部からのおすすめ

最新の注目記事