投資・運用

産声を上げた中国REIT市場のこれだけの可能性=小夫孝一郎

    中国・上海の高速道路と建設中の高層マンション (Bloomberg)
    中国・上海の高速道路と建設中の高層マンション (Bloomberg)

    中国でREIT市場が産声 インフラ限定でも成長余地=小夫孝一郎

     2021年6月に中国で上場REIT(不動産投資信託)市場が発足し、上海・深圳両取引所に計9銘柄が新規上場した(表)。これらの9銘柄は汚水処理場や高速道路などの、中国国内のインフラ(社会整備)セクターと工業団地や物流倉庫などが投資対象となっており、各国のREITで一般的なオフィスや賃貸住宅などの主要な不動産セクターが含まれていないのが特徴だ。(表の拡大はこちら)

     上場9銘柄のうちシンガポール系の「CICC GLP」を除けば政府系のインフラ企業が母体で、投資口価格(株価に相当)の値動きは上場以来、おおむね安定的に推移している(図)。各銘柄とも投資口(株式に相当)は母体企業が握っており、金融市場で売買が可能な浮動株の比率が低いため、今後は投資家の裾野の拡大が課題の一つになっている。

     急速に都市化が進む中国ではインフラ整備に多額の資金が必要で、これが地方政府の財政を圧迫している。中国当局は14年以降、民間資金を利用してインフラ整備を促進する公民連携(PPP=パブリック・プライベート・パートナーシップ)を進めてきたが、収益を生んでいる案件はごく一部に限られ、投資家の裾野も広がっていなかった。今回はREITという上場商品を介して原資を広く民間から吸い上げる方式を採用している。

    負債比率は2割上限

     日本や欧米のREIT市場では、投資対象は通信設備などの一部例外を除くと、ほぼオフィスや賃貸住宅など収益不動産に限定されている。中国のようなインフラ資産に特化したREIT市場というのは世界的に珍しい。とはいえ、上場市場で集めた資金を元手に実物資産に投資し、そこから得られる収益のほとんどを投資家に分配するという仕組みは、日本を含む他のREIT市場と同様である。

     中国では昨今、不動産価格が高騰し、これが社会問題化している。さらなる不動産市場の過熱化を防ぐため、今回は賃貸住宅やオフィスなどの主要不動産セクターが投資対象から外されたという経緯がある。また、REITに対しても多額の負債を伴う投資には当局の警戒が強い。そのため、中国REITでは資産に対する負債の比率は2割を上限とする、世界的にも厳しい規制が設けられている。

     実際に今回、中国で上場したREITはほぼ無借金の銘柄も多い。日本では東京証券取引所に上場しているREIT銘柄の負債比率は4割程度で推移している。中国REITは上場規制が日本や他国と比べて厳しいことで、市場全体の時価総額はまだ6000億円弱(今年8月現在)と、時価総額では10兆円以上の規模がある日本やオーストラリアと比べても小さく、100兆円以上の米国REITには遠く及ばない。

    今後は住宅も認可へ

     まだ未成熟な市場のため、中国REITは現時点で世界の主要なREIT指数には組み入れられていない。とはいえ、今回上場した9銘柄は、あくまで制度設計を整備していく上でのパイロット的なものだ。中国では今後段階的にREITの上場数が増えていく予定で、交通インフラとしては現在の高速道路のほか、鉄道や空港、港湾施設も投資対象としてすでに認可されている。

     国土の広い中国では、交通インフラの投資対象は件数も規模も非常に多いと思われ、潜在的な成長余地は大きい。さらに、データセンターや5G(第5世代移動通信システム)用の設備、スマートシティー(ITを活用した先端都市)などの成長分野もREITの戦略的な投資対象として認められている。地域は限定されるものの、一定の条件を満たせば今後は住宅REITも認可される見通しとなっている。

     また、中国の多くのデベロッパー(不動産開発業者)は、オフィスや商業施設の開発資金として多額の負債を抱えている。こうしたデベロッパーが今後も安定的に事業を継続するには、負債圧縮のため保有する収益不動産の売却が欠かせず、その受け皿としてREIT市場が必要との声も根強い。したがって、中長期的にはオフィスや商業ビルなどの不動産セクターが投資対象に加わってくる可能性もある。

     中国のREIT市場は今後、どこまで大きくなるのか。先行する国々の例から試算してみよう。

     筆者がまとめた各種調査では、日本の賃貸オフィスや商業不動産など収益不動産のストック(資産価値)は100兆円を優に上回るとみられる。このうち、東証に上場するREITの保有資産は約23兆円。収益不動産のストックで割った「REIT化率」は約2割となり、残りはデベロッパーや保険会社、事業法人などが保有している。米国やオーストラリアといった“REIT大国”ではこのREIT化率は3~4割と高いが、欧州主要国では日本と同程度の約2割程度となっている。

    数十兆円市場へ成長

     中国の収益不動産のストックは400兆円程度と推定され、REIT化率はインフラ資産を加えても現在0・1%程度になる。このREIT化率が今後、1割前後まで高まると想定すると、中国REITの市場規模は収益不動産だけで40兆円に膨らむ可能性がある。中国ではインフラ投資も過去20年で1600兆円の規模に達しているとの見方もあり、このうち1%強がREIT化されればそれだけで20兆円近くの資産規模となる。

     中国のREIT市場はまだ産声を上げたばかりだが、市場が成長するにつれグローバルな投資家も投資対象に組み入れる局面はやがて訪れよう。中国では規制が突然変更されたりするリスクが付きものだが、不動産・インフラ投資市場の健全な発展は中国の国益にもかなう。中国REIT市場には今から注目しておくべきだ。

    (小夫孝一郎、ドイチェ・アセット・マネジメント アジア太平洋不動産リサーチヘッド)

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