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EV軸の再編が日本でも加速 欧米は中国格安メーカーに接近=土方細秩子
EV軸の再編が日本でも加速 欧米は中国格安メーカーに接近=土方細秩子
世界で急速に進む自動車の電気自動車(EV)シフト。これが国境や業態の垣根を超えた再編を加速させている。日米有力自動車メーカーの提携にとどまらず、中国のEVメーカーを取り込む資本提携や、新興EVメーカーが伝統的な名車とアライアンス(提携)を組む例も欧州で始まった。
軽のEVで日中連合も
日本では系列を超えたアライアンスがこの夏、明らかになった。7月21日にトヨタ自動車、スズキ、ダイハツ工業が共同記者会見で、軽の商用EV車両について共同事業を立ち上げると発表。これまでは考えられなかったメーカー同士の提携が行われることになる。
軽の商用EVといえば、日本で先駆となったのはASFだ。ヤマダ電機出身の飯塚裕恭社長が2020年に設立したASFは日本初の「ファブレス(自前の工場を持たない)」のEVメーカーだ。このASFが、日中EVアライアンスの第1弾ともいえるだろう。
ASFはデザイン企画のみを行い、製造は広西汽車集団傘下の柳州五菱汽車(五菱)が担当する。既に佐川急便から7000台の注文が入り、大手飲料や訪問清掃の企業からの注文も入りつつあるという。今回のトヨタ・スズキ・ダイハツの共同事業も、こうした新興メーカーへの危機感から立ち上げられたという見方もある。
世界規模でもこうしたEVを巡るメーカー同士の連携、提携関係がこれまでにないスピードで進んでいる。これもファブレスEV企業が主流になるのを防ぎ、何とか自動車製造を自らの手中に収め続けるための方策と言える。
こうした動きの背景には、まず、EVはガソリン車と比べて部品などが圧倒的に少なく、ガソリン車と比較すると参入の壁が低いことがある。それゆえに新興メーカーが続々と登場することになる。
また、EVは基本的にバッテリーとモーターの組み合わせであり、シャシー(車台)がスケーラブル(可変式)だ。つまり小型車から大型車まで、シャシーのサイズを変え、バッテリーやモーターの数を増やすことで、同じプラットフォーム(車体基盤)で対応できる。
それにどのようなボディーを載せ、どのようなソフトを組み込んだシステムを搭載するのかによって差異が生まれる。トヨタが「これからはハードではなくソフトの会社になる」と発信しているのもこのためだ。
つまり、既存の自動車メーカーにとっても、共同で開発したプラットフォームを用い、それを共用した方が、合理的かつ、コスト的にも有利にEV製造を進めることが可能となる。
ファブレスの製造請負は、これまで車のティア1(メーカーに直接納入する1次サプライヤー)だった企業のほか、全く自動車関連の事業を行っていなかった企業も含まれ、自動車メーカーは自社で製造を行う新興メーカーやファブレスメーカーとも競合していかなければならない。そのため、提携関係を結ぶことで、EV時代に優位性を保つ必要性が生まれている。
フォードとVWも提携
世界で見ると、最大のEV提携と呼べるのが米フォードと独フォルクスワーゲン(VW)だ。両社は19年にEVに関する提携を発表、昨年にはそれを拡大する発表を行った。その内容は、主に以下の3点だ。
(1)両社は商用EVで提携する。VW製の都市型デリバリーバン、その後フォードが提供する1トンカーゴトラックのEVを製造。手始めにVWは「フォード・レンジャー・ピックアップトラック」をベースとした中型ピックアップトラックを22年より欧州で発売する。
(2)これらの商用車3種(都市型バン、ピックアップトラック、1トントラック)の合計で800万台の製造を目指す。フォードはVWのEVプラットフォームを用い、23年より欧州で年間60万台のEV販売を目指す。
(3)VWが投資する人工知能ベンチャー「Argo AI」社の技術を用い、VWとフォードはそれぞれ独自に自動運転車両の開発を行う。
つまり、中型車両ではVW、大型ではフォードのプラットフォームを共用することにより、パーツなどのコストが大幅に節約でき、さらにVWはEVプラットフォームをフォード・ヨーロッパとシェアすることにより200億ドル近い収入が得られる。
同様の大型提携は、米ゼネラル・モーターズ(GM)を巡っても起きている。ホンダとGMが提携を発表し、ホンダがGMのEVプラットフォームを使った新型EV開発を行うと発表したことも記憶に新しい。
GMは韓国LG電子とも提携し、米国内にバッテリー工場を建設。また独自のスマートプラットフォームの製造も明らかにした。GMは、同時に米国内でEVピックアップトラックの新興メーカーであるローズタウンや、一時水素トラックで話題となった米新興自動車メーカーのニコラなどにも積極的な出資を行っている。
自動運転では、米カリフォルニア州の自動運転システムを開発する会社を傘下におさめ、GMクルーズとした。同社にはソフトバンク・ビジョン・ファンドとホンダも出資している。
日韓の対抗策に注目
一方、トヨタは中国BYDとの提携を発表。セダンやSUV(スポーツタイプ多目的車)のEV開発に着手する。また、BYDとの提携により、EVに不可欠なバッテリーの確保にも利点が出る。
世界で最もEV開発が進み、生産台数が多い中国には、当然ながら多くのメーカーが合弁や提携を行っている。45万円のEVで話題となった小型EV「宏光」を製造する五菱汽車にはGMが出資しているし、仏ルノーは江鈴汽車のEV部門である江鈴集団新能源汽車(JMEV)の株式の50%を取得した。EVの広がりにより、中国製の自動車が世界で見られるようになる可能性は高い。
EV開発に当たり、これまでは考えられなかったような提携も生まれた。大阪の人材企業アスパークが開発したEVのスーパーカー「OWL(アウル)」のライバルとして知られる、クロアチアのリマック社。創業者のメイト・リマック氏が09年に21歳の若さで作り上げた会社が、高級車メーカーとして名高いブガッティと合併し、「ブガッティ・リマック」を設立した。リマックにはもともとVWグループの独高級車メーカー、ポルシェが投資しており、その後押しを受け、VWグループの一員だったブガッティを吸収してしまった形だ。世界の自動車メーカーにとってはやや驚きの出来事だった。
今後、こうした大型合併や吸収はどこでも起こる可能性がある。特に、米国と欧州が中国メーカーを巻き込んだグループを作り上げることに熱心で、中国が「台風の目」になりそうだ。
日本や韓国のメーカーがこの中に組み込まれていくのか、それとも和製アライアンスにより対抗していくのかも今後の注目となるだろう。
(土方細秩子・ジャーナリスト)