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教養・歴史 書評

アメリカ 2人の大統領を描いた内幕暴露本が話題に=冷泉彰彦

 ボブ・ウッドワードといえば、1973年から74年にかけて、ウォーターゲート事件の暴露を行った伝説のジャーナリストだが、そのウッドワードの新刊『Peril(危機的状況)』が話題を呼んでいる。9月21日に発売されると、紙版でも電子版でもアマゾンのランキング1位となり、その内容は多くのケーブル・ニュース局で繰り返し取り上げられている。本書は、同氏による一連のホワイトハウス内幕本シリーズの最新版に他ならないが二つの点で過去の作品と異なっている。一つは、一つの政権にフォーカスするのではなく、ドナルド・トランプ政権の末期とジョー・バイデン政権の初期を連続して扱っていることだ。もう一つは、過去の作品とは違って、今回は『ワシントン・ポスト』の同僚である若手のロバート・コスタ記者との共著であり、結果的に幅広いインタビューを行うことで多角的な情報収集ができているとしている。

 内容としては、例えばトランプ政権末期に、軍の最高幹部であるマーク・ミリー統合参謀本部議長が、大統領が中国との核兵器使用を含む戦争に踏み切ることを警戒して、独自に中国側と接触していたという本書の記述は世界を驚愕(きょうがく)させた。ミリー議長の危機感は、例えば民主党のペロシ下院議長とも共有されていたとされ、トランプが衝動的に「核のボタン」を押す危険を、あらゆる手段を講じて阻止することで軍と野党の協調が図られていたとしている。また、軍の中枢がトランプへの疑念を抱いたのは、黒人の人権を要求するデモ隊を制圧するために首都ワシントンに連邦軍を展開するようにトランプが迫った際であり、それ以来、非常に真剣な警戒感を持ち続けていたという。

 一方で、その後のバイデン政権に関しては、今度は軍としては「アフガンからの早期撤退」は混乱を招くとして、民間人の退避を進めたのちに兵力の撤退を進言していたという。これに対して、大統領が政治的決定として早期撤退を決断した経緯も活写されている。このように、結果的に本書は共和党政権と民主党政権の双方に「メスを入れる」ことで中立性をアピールできており、これが多くの読者に歓迎されているようだ。

(冷泉彰彦・在米作家)


 この欄は「永江朗の出版業界事情」と隔週で掲載します。

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