背中を押されるとは思ってもいなかった 東大卒eスポーツ選手・ときどがプロゲーマーの道を選ぶ決め手となった「親からのひと言」
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東大卒のeスポーツ選手 ときど プロ格闘ゲーマー/4
東京大学卒業という経歴をもちながら、日本で2人目の格闘ゲームのプロとしてデビュー。今や世界にも名の知れ渡るプロプレーヤーにまで上り詰めたが、そこに至るまでの道のりはつまずきと迷いの連続だった。
(聞き手=白鳥達哉・編集部)
「ゲームに情熱をもって取り組んでいます」
「プロゲーマーという道は今でさえ止められる決断。まさか親から背中を押されるとは思ってもいなかった」
── 今年の6~7月に世界各地域で開催された「インテル・ワールドオープン」では、格闘ゲーム「ストリートファイターⅤ」部門の日本&韓国地区大会で優勝しました。
ときど インテル・ワールドオープンは、もともと2020年東京オリンピックの開催に合わせて立ち上がったもので、予選として世界11の地区で大会を行い、地区ごとの優勝者がオリンピック前夜に集まって世界一を決める予定でした。しかし、新型コロナウイルスの影響もあったため、地区ごとの決勝までを行うという形に変更されています。
僕は本戦で一度負けてしまったのですが、その後の敗者復活戦で勝ち上がり、負けた相手と決勝戦で再び対戦、リベンジを果たして優勝することができました。(情熱人)
── 大会で必要な機材はどういったものがあるのですか。
ときど 新型コロナウイルスが流行する以前は、基本は家庭用ゲーム機が使われていました。ただ、現在はオンライン開催がメインであるため、パソコンが主になっていますね。
機材一つの性能が、試合にも大きく影響してきます。例えばモニターにはコントローラーの操作に反応して、実際に画面に描画されるまでの「応答速度」というものがありますが、これが速いほど、相手の動きに即座に対応できる。このような部分も妥協せず、勝負に勝つために徹底的に追求しています。
── ルールで禁止されてはいない。
ときど ある程度のレギュレーションは決められていますが、違反にならなければカスタマイズは自由です。僕もコントローラーは、大きさを変えたり、人間工学の観点から特定のボタンを手のひらで押せるように場所を変えたりしています。
心が躍った“敗北”
── ゲームといっても、ジャンルはさまざま。その中で格闘ゲームを選んだ理由は。
ときど 小学3年生のとき、いとことセガの「バーチャファイター」というゲームを対戦し、そこで完膚なきまでにたたきのめされたのです。僕はそれまで、勉強もゲームも人よりうまくこなし、ほとんど負けた経験がなかった。努力をしないと勝てない人がいるという事実は、僕の心を躍らせました。
そこからはひたすら格闘ゲーム一本。家にいる時間はひたすら格闘ゲームだけをやり続けました。親も「勉強で良い成績を取ったらゲームを買ってやる」という方針だったので、ゲームを買ってもらうために勉強も人一倍頑張った。おかげで、名門と呼ばれる私立麻布中学校(東京)に進学することもできました。
中学に進学してからもゲーム漬けの日々は続く。15時まで学校の授業を受けてから地元の横浜に戻り、入店規制がかかる18時までゲームセンターで過ごす。資金は毎日もらえるお昼代の500円。昼食を安く済ませてはゲームセンターに通って仲間と競い合い、家に帰ってからも同じゲームで、1人練習に励んだ。この頃に自身が使っていたゲームキャラクターの戦術の頭文字を組み合わせた、「ときど」のニックネームも誕生した。
東大受験に失敗
── エスカレーター式で高校へ進学しましたが、大学受験は嫌でも意識しなければなりません。
ときど さすがに親にも心配されたので、高校1年生の時期から塾に通い始めました。通学の時間なども勉強に充て、1日8時間は勉強していたと思います。それ以外はとにかくゲーム。高校2年生のときには、米国で開催された「EVO2002」に参加し、初めての海外大会にもかかわらず優勝して世界一に。完全に有頂天になっていました。
ただ、人生はそんなに甘くはありません。3年生になって、いざ勉強に集中してみると思ったように成績が上がらず、加えて受験へのプレッシャーから体調を崩してしまったのです。そのような中で東京大学受験に挑戦しましたが、結果は不合格でした。
── 東大以外の選択肢はなかったのでしょうか。
ときど 子どもの頃から東大に入ることしか考えていなかったんです。父(谷口尚・東京医…
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週刊エコノミスト
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