景気後退の90年代。就職氷河世代の青春を丁寧に描く=勝田友巳
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映画 ボクたちはみんな大人になれなかった=勝田友巳
90年代に青春過ごした世代の郷愁 「なくしたもの」の手触り確かめる
1990年代半ばに青春時代を過ごし、何者かになると夢みたものの、いろんなものを諦めて折り合いをつけ、2021年のいま、40代後半にさしかかってくたびれた大人になりかけている。いや、あなたのことではなく、この映画の主人公、テレビのテロップ制作会社に勤める佐藤である。彼の四半世紀を時制を行き来しながらたどる。劇的とは言いがたい人生の、他人の目からはどうでもいいような出来事でも、本人にとっては一大事だ。映画はそれを、感傷という色の付いた拡大鏡で大写しにしてみせる。
95年、自分は人と違うと思っていた20代初め。情報誌の文通欄をきっかけに知り合ったかおりと初めての恋をして、「自分より好きな人」がいる幸せをかみしめる。手間と時間のかかる文通で互いを知り合い、ポケットベルと公衆電話が通信手段。小沢健二の音楽が好きという共通点で結びつき、渋谷のミニシアター、シネマライズやWAVEでデートする。時代の風俗や流行のディテールを丹念に再現するから、同世代なら懐かしさに胸…
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