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中国GDP分析を誤らせる「前年同期比」のワナ=藻谷俊介

 中国の7~9月期国内総生産(GDP)の前年同期比伸び率が実質で4・9%となったことで、今さらながら中国経済の減速を強調する報道が続いている。

 本誌4月20日号の当コラムで、世に先駆けて中国経済の減速を主張した筆者としては、「異論なし」と言いたいところであるが、残念ながらそうはいかない。肝心の時間軸がずれているのだ。

 統計は簡単に分析できるが、実は奥が深く、ワナもある。今回は少し原理に目を向けよう。前述の報道においてよく使われているのが、図1実線のような前年同期比伸び率のグラフである。これで見ると確かに中国経済は今年1~3月期に2割近い伸び率を見せた後、2四半期かけて急速に減速しているように見える。

 しかし、この1~3月期の強い伸びは幻なのである。同じ中国GDPの季節調整済み前期比伸び率を示した図1点線を見ると、実際の中国経済の急回復は昨年の4~6月期がそのピークであり、その後の2四半期で減速し、今年に入ってからの3四半期はずっと低迷していることが分かる。

 なぜ2線にこのような時間差が生じるかというと、前年同期比は前年の影響を受けてしまうために、今年が良い場合だけでなく、前年が悪い場合にも、同じように良くなったように見えてしまうという致命的弱点を持っているためである。あくまで現実は点線である。日本のGDPは点線のように前期比で報道しているのだから、中国のGDPも前期比で報道しなけれ…

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週刊エコノミスト

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