国際・政治

岸田政権の「成長と分配」論争に欠かせない視点とは=編集部

経済活動は戻り始めたが……(10月2日、大阪・道頓堀)
経済活動は戻り始めたが……(10月2日、大阪・道頓堀)

コロナ「第5波」後に原油高 見えぬ「成長と分配」の具体策=編集部

 10月31日に投開票された衆院選(定数465)では、自民党が261議席、公明党32議席を獲得し、自民党は公示前より15議席減らしたものの、与党の自公両党で計293議席と絶対安定多数(261議席)を超えた。ただ続投する岸田文雄首相にとっては、今後の日本経済のかじ取りをするうえで、自身が掲げる「成長と分配の好循環」をいかに実現するかという重い課題がのしかかる。

 新型コロナウイルス禍で大きく傷んだ日本経済。2020年度の国内総生産(GDP)の実質成長率は前年度比4・4%減と、1995年以降で最も大きな落ち込みを記録した。今夏のコロナ「第5波」により、今年7~9月期も2四半期ぶりのマイナス成長となる見通しで、第5波が収束に向かう中を今度は原油など資源高が襲う。追い風とはとても言えない船出だ。

実感できない豊かさ

 アベノミクスが野党の批判を浴びる中、岸田首相が打ち出したのが「成長と分配の好循環」だった。ただ、実は日本の所得格差は縮小している。厚生労働省の「所得再分配調査」によれば、所得再分配後のジニ係数(1に近いほど所得格差が大きい)は、直近の2017年のデータで0・3721と、05年以降は低下を続けている。それでも多くの人が豊かさを実感できないのはなぜか。

 第一生命経済研究所の永浜利広首席エコノミストは「経済のパイの拡大が不十分だったから」と指摘する。実際、アベノミクスが始まった2013年度こそ実質2・7%成長を記録したものの、その後は伸び悩む状況で、名目GDPは19年度まで3年度連続で550兆円台にとどまっている。人々が豊かさを実感しながら成長するには、やはり賃金上昇が欠かせない。

 しかし、「成長と分配の好循環」への具体策はまだ見えない。岸田首相は「賃上げ企業に税制優遇」との考えも示すが、永浜氏は「そもそも日本企業は半分以上が赤字。税制優遇措置に大きな効果があるとは思えない」と話す。そのうえで、「本当に賃上げをしようと思えば、やはり解雇規制の緩和や職業訓練の充実など労働市場改革に着手する必要がある」という。

 投開票日翌日の11月1日、日経平均株価は前週末比2・6%上昇した。短期間で政権が交代するリスクが後退したことを市場はひとまず好感したが、JPモルガン証券の阪上亮太チーフ株式ストラテジストは、「岸田首相が提唱する『新しい資本主義』の実像が見えてこない現状では、持続的に海外の買いが入るとは期待できない」とみる。日本経済の成長への道筋を具体的にどう描くか、手腕が問われる。

(編集部)

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