国際・政治

自民「絶対安定多数」でも岸田政権の気勢が上がらないワケ=人羅格

    甘利明氏(左)の小選挙区敗北は、岸田文雄首相にとって大きな痛手 Bloomberg
    甘利明氏(左)の小選挙区敗北は、岸田文雄首相にとって大きな痛手 Bloomberg

    衆院選「自民絶対安定多数」でも気勢上がらぬ岸田政権=人羅格

     風が最後まで読めない戦いだった。フタを開ければ自民、立憲民主、与野党どちらの第1党にも追い風は吹いていなかった。

     衆院選は自民が絶対安定多数を超え、261議席を確保した。政権発足後、いきなり初陣にのぞんだ岸田文雄首相としては及第点といえる水準だろう。

    菅、河野氏巻き返しも

     だが、党の要である甘利明幹事長が小選挙区で痛恨の苦杯を喫した。政権に勝利感は乏しい。

     首相、立憲民主党の枝野幸男代表が開票番組でそろって厳しい表情を浮かべていた。おそらく、首相が一定の感触を得たのは、深夜に開票が進んでからだろう。

     煎じ詰めれば、自民、立憲両党の議席の減少分が、そのまま躍進した日本維新の会に移行したくらいの選挙結果である。

     だが、小選挙区の攻防はし烈だった。投票前夜、東京・品川のJR大井町駅前で首相が行った締めの演説は、かなりの部分が東京3区の前職、石原宏高氏の支援呼びかけに費やされた。宏高氏は結局、小選挙区で敗北した。

     首相は今回、勝利のためにはなりふり構わず手段を選ばないという、意外な一面をのぞかせた。

     投票日を当初想定よりも1週間早い、10月31日としたのはその象徴だ。衆院解散から投票までわずか17日間という異常な日程だったが、それでも野党による政権批判が高まる余地を強引に封じこめようとした。

     総裁選でしきりと強調していた「分配」もトーンダウンした。

    「岸田総裁」誕生後、株式市場は分配重視を懸念した失望売りが続き、「岸田ショック」と言われていた。ほどなく首相は「分配」の目玉だった金融所得課税の見直しを棚上げしてしまった。「選挙で負けては元も子もない」という割り切りだろう。

     首相の近著『岸田ビジョン』(講談社)では、2000年の「加藤の乱」を若手議員として体験した経験が生々しく描かれている。「宏池会」のトップだった故・加藤紘一元幹事長が森喜朗首相(当時)に反旗を翻そうとして鎮圧された。その経緯を首相は「勝負をかけたときは、絶対に負け戦をしてはダメだ」と総括している。これが首相の政治家としての原体験なのかもしれない。

     ただし、甘利氏が小選挙区で落選し、幹事長辞任に追い込まれた痛手は大きい。「政治とカネ」の問題を抱える甘利氏を党の要に起用した首相人事に対する、有権者の拒絶に等しい。

     安倍晋三元首相は、新政権人事で、総裁選で支援した高市早苗政調会長の幹事長起用を求めていた。安倍氏と近い甘利氏の幹事長起用は、その防波堤の意味合いがあった。後任は茂木敏充外相となったが、これからは安倍氏の「風圧」をまともに受けることになりかねない。

     総裁選で破った河野太郎前規制改革担当相ら勢力の巻き返しも首相の懸念材料となる。

     衆院選の遊説を通じ、河野氏の根強い人気が改めて浮き彫りとなった。参院選を前に政権運営が迷走すれば、再び「河野首相待望論」「岸田降ろし」に発展していく展開は十分にあり得る。

     キーマンとなるのは、菅義偉前首相だろう。今回、日本維新の会が41議席も獲得し、政権批判票の受け皿になった。菅氏は河野氏、維新双方に近い。総裁選で一敗地にまみれた「菅、河野連合」が維新とのパイプを切り札に復権をうかがう可能性がでてきた。

     首相が「分配」を早々にトーンダウンさせ、政権の軸足をいとも簡単に変えた後遺症も残りそうだ。融通無碍(ゆうずうむげ)と言えばそれまでだが、あまり方向性がぶれると、肝心の何を目指す政権なのかすら、訳が分からなくなる。

    限界だった「枝野商店」

     一方、よもやの100議席割れで96議席に終わった立憲民主党が置かれた状況は自民党以上に深刻である。枝野幸男代表は引責辞任に追い込まれた。自民批判票の受け皿になるどころか、14議席も減らしたのだから「完敗」だ。

     一番の敗因は、野党共闘をテコにした戦略が不発に終わり、逆に独自の存在感がかすんでしまったことにある。立憲は今回共産党との共闘に踏み込み、213の小選挙区で候補を一本化した。「政権交代」を強調したのは、その正当化を迫られた事情もあったはずだ。

     だが、首相交代効果で、2009年の旧民主党のような政権交代劇がリアルに起きる可能性は低くなった。従って、消費税率引き下げなどの分配案も現実味を帯びず、「政権選択」を強調する立憲の主張は空回りした。

     頼みの無党派層にも浸透できなかった。4年前、「希望の党」に反旗を翻して枝野氏らが結党した際は、一種の判官びいき的な支援があった。だが、4年を経て「理屈っぽく、唯我独尊的な」勢力だと有権者にみられていたのではないか。いずれにせよ、「創業者」枝野氏を中心とする個人商店的な運営には限界があった。

     来夏の参院選はすでに1年以内に迫っている。政権選択の選挙は衆院選だが、政権の強さは参院の勢力分野に規定される。

     今回は「融通無碍」戦略で済ませた岸田政権も、今度は政策や実績が試される。風なき衆院選を、より真剣に総括できるのは与野党どちらだろうか。

    (人羅格・毎日新聞論説委員)

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