経済・企業 雇用
路上生活者でも採用する会社 賞与年4回も下位5%はクビ=永井隆
ネットカフェ難民や路上生活者など職がなく生活に困窮している人を正社員として雇用し、80歳でも働ける会社がある。
不動産管理の新栄不動産ビジネス(東京都新宿区)だ。2000年に経営破綻した千代田生命保険の不動産管理部の元課長、新田隆範氏(67歳)だが、同子会社をMBO(経営陣による企業買収)してスタートした。
コロナ対策で世界的な金融緩和であふれた資金が東京の不動産に流入し、ビル建設が都内で相次いでいる。ところがビルの設備管理や清掃・警備といったビルメンテナンスは、慢性的な人手不足。ビル建設のスピードに人の手当てが追いつかないのだ。
そこで、新宿区内に風呂付きワンルームの社宅を用意し、職と住居を提供し困窮者の生活基盤を支える一方で、業界が直面する人手不足への対応を図り、新規採用者を戦力にしているのだ。
同社はこれまで、外注を活用したり、外国人在留者をパートで雇いやりくりしてきた。
しかし、10月の緊急事態宣言解除で外国人がもともと働いていた飲食業界へと戻っていった。
そこで注目したのが住居をもたない生活困窮者。
11月に入り、都内のネットカフェをはじめ、新宿や池袋の炊き出し会場などに、チラシの裏面が履歴書となっている「正社員募集」を配布し始めた。
募集職種はビル管理人と清掃員・警備員。月給は19万~23万円。学歴、年齢、性別は一切問わないが、技術者は優遇する。1日の実労働は8時間で週休2日。年内に50人、年明けにも50人規模で雇う計画だ。
「住居があれば人は安心して働ける」と新田社長。
同社は、従業員500人、売上高(3月期)約50億円の中堅企業。営業利益率は「(今期は)6~7%を見込む」(新田社長)。業績が好調な2年前から、賞与を年4回支給。なかには1回分で160万円を受けた社員もいる。「経営コンサルタントに高額なフィーを払うなら社員に報いる」という。
特に定年はなく80歳で働く人もいる。40歳以上の社員が多いため、親の介護にも対応できるよう、仕事の途中の「中抜け」や「立ち寄り」「早帰り」を認め、月1回の有給休暇取得も推奨している。
解雇まで3回配置換え
なぜこの採用形態が実現するのか。カギは徹底した成果主義だという。同社では毎年下位5%の人材は「クビ」になる。しかも営業や技術、海外事業などに従事するホワイトカラーだけではなく、清掃や警備の現業部門の社員も、クビの対象だ。
米企業なら一般的だが、日本企業では珍しい。
もっとも、解雇されるまで、配置転換を3回行う。秘書、受付業務でうまくいかず、最後の営業で実力を発揮して執行役員に出世した50代女性もいる。
新田氏は「働かない社員がいれば、会社は簡単に潰れる。それだけに、人材のレベルを常に上げていかなければならない。労働力をもち、自分たちで動ける会社が最後は勝つ。やはり企業は人だ」と屈託なく語る。
(永井隆・ジャーナリスト)