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FTCがエヌビディアの独占を嫌いアーム買収阻止に動く=津田建二
米当局が半導体統合に待った アーム買収したエヌビディアを提訴 ソフトバンクGに打撃も=津田建二
米半導体大手エヌビディアによる、ソフトバンクグループ(SBG)傘下の英半導体設計大手アームの買収について、米連邦取引委員会(FTC)は12月2日、買収を阻止する訴訟を起こした。
エヌビディアは昨年、最大400億ドル(約4兆5000億円)でアームを買収することでSBGと合意したが、FTCは「独占禁止法に抵触する」と判断した。
エヌビディアがアームを買収する狙いは、ハイエンドのコンピューターシステムの制御や演算を確保し、AI(人工知能)分野でリードするためだ。しかし、アームは多くの半導体メーカーや機器メーカーにライセンス供与するIP(知的財産の価値のある集積回路上の一部の回路)ベンダーであり、1社の傘下に入ると「中立性」が失われ他の半導体メーカーは発注しづらくなる。FTCは、アームのCPU(中央演算処理装置)コアを1社が独占することに反対したのである。
エヌビディアは「アームの中立性は担保する」と公言しているが、これは怪しい。今、半導体業界では、アーム製のコアをメモリーと一緒に集積してコンピューターの性能を上げる手法である「インメモリー・コンピューティング」がスーパーコンピューターやデータセンターなど「HPC(高性能コンピューティング)」分野で使われ始めている。エヌビディアとしては、アーム買収でCPUコアを独占できる。その状況で利益より中立性を重んじるかは疑問だ。
HPC分野では、汎用(はんよう)CPUの他に、演算専用のGPU(画像処理回路)やFPGA(プログラム書き換え可能な集積回路)で性能・消費電力を改善する傾向が強い。エヌビディアはGPUは強いが汎用CPUは内製していない。このため、アームを傘下に入れることができれば、エヌビディアはHPC分野で将来性が高まる。しかし、買収が頓挫すれば、同社はHPC分野で、「GPUサプライヤー」の1社で終わる可能性がある。
アームもいばらの道
一方、アームとしてもHPC分野では、米インテル、米AMDとの競争にさらされる。エヌビディアによるアーム買収の案件が表面化してからは、ライセンスフリーのCPUコアである「RISC-V(リスク・ファイブ)」が急速に勢いを増してきている。ルネサスエレクトロニクスやインテル、米ウエスタンデジタルなどがRISC-Vの採用を決めた。アームの最大の強みは、約1000社にも上る供給先だが、今後、仮にRISC-Vが主役になれば、アームは世代交代の憂き目に遭う。
SBGにとってもアームの売却頓挫は痛手だ。SBGはオフィスシェアリングのスタートアップ、米WeWorkへの1兆円という巨額投資で大赤字を出し、財務と投資の強化のために資金調達を急いでいる。訴訟で売却できない場合、資金調達に狂いが出ることは避けられず、SBGの株価にも悪影響が出る可能性がある。
(津田建二・国際技術ジャーナリスト)