1票の格差是正を骨抜き 「3増3減」細田案の狙い=中田卓二
有料記事
衆院選小選挙区の「1票の格差」の是正を骨抜きにする動きが自民党で浮上した。人口比をより正確に反映する「アダムズ方式」による定数配分見直しを事実上、棚上げする案だ。「地方の声が反映されなくなる」という主張はもちろん建前に過ぎない。
最高裁は2009年以降の衆院選を3回連続で「違憲状態」と断じた。3回目に当たる15年11月の判決が国会の格差是正策を「まだ不十分」と批判したのを受け、各党はようやく重い腰を上げたものの、結局、小選挙区の「0増6減」と比例代表の4減で妥協。アダムズ方式の導入を20年国勢調査後に先送りした。自民党は導入に抵抗していたが、安倍晋三首相(当時)の「鶴の一声」で容認に転じた。
アダムズ方式は第6代米大統領のアダムズが考案したとされる。各都道府県の人口を「ある数」で割り、小数点以下を切り上げた整数がそれぞれの議席数になる。合計が小選挙区の議席数(現在は289)に合致するような「ある数」を探すのがポイントだ。
20年国勢調査の確定値は21年11月30日に発表された。これにアダムズ方式を適用すると小選挙区の「10増10減」が必要になる。衆院選挙区画定審議会(区割り審)は格差を2倍未満に抑える区割り見直し作業を本格化し、22年6月までに首相に勧告する。
10増の内訳は東京が5増、神奈川が2増、埼玉、千葉、愛知が各1増。一方、10減の対象になる宮城、福島、新潟、滋賀、和歌山、岡山、広島、山口、愛媛、長崎の10県には自民党の地盤が固いところが多い。
「10減」では収拾つかず
アダムズ方式の導入は16年5月に成立した衆院選挙制度改革関連法で決まっている。しかし、20年国勢調査の確定値発表と同じ日、細田博之衆院議長は自民党の高木毅国会対策委員長らを国会内の部屋に呼び、議長就任前から温めていた「3増3減」案を示した。出席者によると、東京が2増、神奈川が1増、新潟、愛媛、長崎が各1減で、この案でも最大格差は2倍未満になるという。
細田氏は自民党きっての選挙通として知られ、アダムズ方式導入には当時から「血の通わない結果になる。地方の思いを実現する政治とは何かを考えなければならない」と反対していた。とはいえ、議長の立場でちゃぶ台返しはできないので、高木氏らに案を授けたようだ。内容を聞いた同党幹部は「アダムズ方式の撤回ではなく、一部適用だ」と解説した。
「一部適用」とはよく言っ…
残り1070文字(全文2070文字)
週刊エコノミスト
週刊エコノミストオンラインは、月額制の有料会員向けサービスです。
有料会員になると、続きをお読みいただけます。
・1989年からの誌面掲載記事検索
・デジタル紙面で直近2カ月分のバックナンバーが読める