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「現実離れ」の電子帳簿保存法が急転直下「2年猶予」に追い込まれた必然=松嶋洋

請求書や領収書のデータ保存に事業者の対応が追い付いていない
請求書や領収書のデータ保存に事業者の対応が追い付いていない

税制改正大綱 ドタバタの電帳法施行 急転直下の「2年猶予」=松嶋洋

 自民・公明両党が12月10日に決定した与党税制改正大綱で、2022年1月施行の改正電子帳簿保存法について、2年の猶予期間を設けることが急きょ盛り込まれた。改正電子帳簿保存法では、電子データでやり取りした請求書や領収書などは、所定の検索要件などを満たす形でそのまま電子データとして保存することを事業者に義務付けている。しかし、事業者側の対応が間に合わないことを受け、土壇場で猶予期間を設ける前代未聞の事態となった。

 改正電子帳簿保存法では、電子データのプリントアウト保存が税務上、認められなくなる予定だったが、2年間はこれまで通り紙での保存も容認されることになった。税制改正には、(1)過去に遡及(そきゅう)して改正法を適用しない、(2)納税者が余裕をもって対応できるよう、適用時期までに十分な時間の猶予を設ける──という最低限のルールがあるが、施行まで1カ月を切るタイミングでの今回の税制改正は、これらをまさに逸脱している。

「2年の猶予」といううわさが出たのは11月中旬だった。企業側の対応が間に合わないという声が大きいことから、データ保存ができない「宥恕(ゆうじょ)規定」についての国税庁の通達を改正し、システム対応が間に合わない場合を宥恕規定の対象にするよう、という検討がなされていたという。しかし、その後、12月初旬には急転直下で、「省令」を改正する方針に転じ、2年の猶予を認めることになった。

「現実離れ」の制度

「宥恕規定」とは、「災害などのやむを得ない事情がある時に、例外的な対応を認める規定」を意味する。しかし、特殊な制度であるため、すべての納税者に対して宥恕規定を適用するのはそもそも無理がある。本来は2年の猶予を設けるなら、国会が定めた法律上の適用時期を変えなければならないが、そうなると手間と時間がかかるだけでなく、誤った税制を作ったことが既成事実となる。そこで、財務省主税局は「省令」の改正を選択したのだろう。

 省令は「行政」が法律の範囲内で規定する細かなルールであり、その改正は「立法」として国会を通過させる必要はない。だが、そもそも法律の範囲外のことを省令で定めることは違法であり、省令改正によって2年の猶予を設けることも無理がある。日本国憲法における租税法律主義(税のルールはすべからく法律で定める)から逸脱していると言わざるを得ない。

 問題の根本は、財務省主税局が現実を踏まえない制度を作ったことにある。今回の改正電子帳簿保存法は20年末の税制改正大綱に盛り込まれたが、施行まで1年もなかった。電子取引のデータ保存を義務化するなら、システム業者などと意見交換を密にするとともに、適用時期についても余裕を持たせるべきであった。税制は密室で作られると言われるが、今回のように現実に即さない制度ができ、大混乱が生じるリスクがある。

(松嶋洋・元国税調査官、税理士)

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