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賃貸住宅は東京23区独り負け コロナで変わる不動産事情

家賃の安い単身者向け住宅の賃料が下がっている Bloomberg
家賃の安い単身者向け住宅の賃料が下がっている Bloomberg

 日本で新型コロナウイルス陽性者が確認されてから2年が経過した。コロナ禍は日本経済に打撃を与えた。特に2020年4月に発令された第1回緊急事態宣言以降、人の流れが大きく制限された。(「下がるマンション 不動産大予測」特集はこちら)

 これにより最も大きな影響を受けたのが東京都である。総務省の「住民基本台帳人口移動報告」によると、東京都への人口の流入は、コロナ前の19年度は前年比8万3455人増であったが、コロナ禍の20年度は同7537人と大きく減少した。さらに、21年度の上半期(4~9月)は同8756人減と流出に転じている。

 一方で神奈川県、埼玉県、千葉県への人口流入はコロナ前と同じ水準であり、首都圏一極集中は継続している。東京都のみ独り負けなのである。

 さらに掘り下げていくと興味深いことがわかる。東京都の「住民基本台帳による世帯と人口」によると、コロナ前の19年度は、東京23区の人口は前年比8万4960人増だったのに対し、コロナ禍中の20年度は同3万171人減であった。一方東京23区外の東京市部では、19年度の人口が同1万3543人増であったのに対し、20年度は同5516人増であり、東京23区に比較して影響が小さかったことがわかる。

 住宅市場に影響する世帯数では、東京23区は、19年度が前年比7万4423世帯増、20年度が同1万84世帯増と増加幅が大きく減少したのに対し、東京市部は、19年度が同2万2899世帯増に対し、20年度は同程度の同2万1639世帯増である。このように、東京都の独り負けの実態は、東京23区の独り負けだったことがわかる。

 このような状況下においても住宅販売の流通市場は堅調である。20年度の前半こそ、緊急事態宣言発令の影響を受けて、売り上げが落ち込んだものの、年度後半に急回復した。最終的には、新築マンション販売数、中古マンション成約数は19年度並み、新築・中古戸建の成約数は19年度を上回った。これは、収入が高い層へのコロナ禍の影響が軽微であったこと、テレワークが拡大したことによる住み替え需要が喚起されたことなど複数の要因が組み合わさった結果である。

年間6・5万戸の供給過剰

 では世帯数の増加幅減少(住宅需要の縮小)のしわ寄せはどこに向かったのであろうか。賃貸住宅である。中古住宅を対象とする情報システム、レインズシステムの東京都の賃貸住宅在庫数は、20年に入ってから跳ね上がっている。

 図1、2は、東京23区と東京市部の世帯数の増加幅(需要)と貸家着工数(供給)の12カ月移動平均推移を示している。東京市部はコロナ前、コロナ禍中で需要と供給のバランスに大きな変化がない。一方で、東京23区は世帯数の増加幅が大きく減少しているのに対し、貸家着工数はコロナ禍においてもコロナ前と同水準で推移している。

 このため、東京23区の需給ギャップは急激に拡大した。レインズシステム上で跳ね上がった賃貸住宅の在庫は東京23区に集中していると考えるのが妥当であろう。

 コロナ前に東京23区で新規供給されていた賃貸住宅の約7割が単身者向けの賃貸住宅(ワンルーム、1K) である。ワンルームはキッチンが部屋の中にあり、1Kはキッチンが部屋の外にある間取りで、いずれも単身者向けだ。工期を考慮すると、20年度に23区で供給された賃貸住宅の約7割(約4万戸)も単身者向け賃貸住宅だった可能性が高い。

 各区の人口統計から推計すると、コロナ前には年間約4万人の単身者が増加していたため、需要と供給のバランスがとれていた。ところが、コロナ禍では逆に年間約2・5万人の単身者が減少した。したがって、年間約6・5万戸の単身者向け賃貸住宅が供給過剰になったと考えられる。現在、在庫の多くは単身者向け賃貸住宅であろう。

 図3に東京23区の間取り別空室率の推移を示した。20年中旬から単身者向けであるワンルームと1Kの空室率が急上昇していることが確認できる。これに対して、それ以外の間取りはほとんど変化がない。そもそも供給量が少ないこと、テレワーク拡大による住み替え需要が喚起された等が要因であろう。賃料についてもワンルーム、1Kは下落に転じているが、2LDK、3LDKは上昇傾向を維持している。

高額賃貸はほぼ満室

 興味深いことに住宅系Jリート(不動産投資信託)の所有物件や、平方メートル単価4000円以上(50平方メートルで家賃20万円程度以上)の高価格帯賃貸住宅の稼働率は95%以上を維持したままである。収入が高い層へのコロナ禍の影響が軽微であったこと、大手会社が管理しているため、リーシング力(借り手を見つけて入居率を高める能力)が高い等の理由から、コロナ禍の影響が軽微であったと考えられる。

 コロナ禍で大きな打撃を受けた宿泊業、飲食業などは大都市の中心部に集中しており、かつ従業員の非正規比率が高い。これらの業種に従事していた従業員が、職を失い東京23区を離れたことが、単身者を減少させ、単身者向け賃貸住宅を供給過剰にしたと考えられる。つまり、これらの業種の回復が空室率改善のカギを握っていることになる。

市場回復に数年も

 第5波収束後、日本での感染者数は低い水準で推移していたことから、人流が回復傾向となり、飲食業などの利用者も増加し始めていた。しかし、感染力の強いオミクロン株の感染が急拡大している。22年も引き続き新型コロナウイルスに翻弄される1年となりそうだ。懸念されるのは、コロナ対策が定常化することである。コロナ禍3年目となる22年は、その分岐点となる可能性がある。定常化した場合は、東京23区からの単身者の流出が継続し、賃貸住宅市場の回復に数年を要する可能性がでてくるだろう。

(藤井和之・タス主任研究員)

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