参院選へ失点回避で逃げ切り図る 岸田流の“聞く力”=人羅格
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失点回避で逃げ切り図る首相 参院選はオミクロンが関門に=人羅格
通常国会は、猛威をふるう新型コロナウイルス「オミクロン株」の感染対策が論戦の軸となっている。
岸田文雄首相は夏の参院選に向け、ひたすら失点回避を図ろうとしている。野党がバラバラで勢いを欠く中、ある種の無風状態がつかの間の安定を生んでいる。
与党にも、野党にも波風を立てぬように腐心した首相の施政方針演説だった。
重点を置いたオミクロン対策は従来方針の繰り返しで、私権制限論議に波及するとみられた感染症法改正案の提出は早々に先送りした。昨年末の所信表明で言及していた「新たなGoTo事業」のくだりは推敲(すいこう)段階で削られた。
看板の「新しい資本主義」を前面に出し「人への投資」を強調した。といっても、与党や経済界の反発を考慮して見送られた金融所得課税強化のような、明確な再分配策はみえない。
意地悪な見方をすれば、そんな当たり障りのない内容こそ、計算ずくだろう。首相はおそらく、現状でも参院選は乗り切り可能だと踏んでいるのだ。
朝令暮改を逆利用
衆院選を終えてから、首相は一度政策判断を誤っても、世論の批判を浴びるとすぐさま転換する展開を繰り返した。
子育て世帯への10万円相当給付をめぐる所得制限やクーポン配布の迷走などは、政権に深手を与えておかしくなかった。ところが首相は方針変更し、「聞く力」を逆にアピールするというパターンを編み出した。いわば、朝令暮改のビジネスモデル化である。
時事通信の1月の世論調査で、内閣支持率は約52%と前月より約7ポイント上昇した。他調査でも、おおむね堅調に推移している。ムキにならない「柔軟な岸田」路線に世論は寛容なようだ。
夏の参院選は、248議席のうち125議席を奪い合う。
非改選の与党議席が68議席あるため、改選過半数に届かなくても57議席以上を得れば参院で「ねじれ」に追い込まれない。つまり惨敗を喫しなければよい。
32ある改選数1の「1人区」の勝敗がカギを握るが、野党は勢いを欠いている。立憲民主党は泉健太代表の下で再出発した。だが政党支持率は、おおむね日本維新の会の後塵を拝している。これでは野党候補の一本化に弾みがつきそうにない。
立憲幹部の一人は「ウチを離れた支持層が、維新には行かず、中庸な岸田政権支持に回っているようだ」と警戒する。逆に維新が岸田批判票の受け皿となっても、改憲保守勢力だけに、自民にとっては当面、さほど脅威ではない。むしろ公明党への揺さぶりや、立憲の無力化が期待できる。
何とも都合のいい状況が、首相の目の前に広がっている。だからこそ極力、ミスや失点を防ぎ、…
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週刊エコノミスト
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