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国際・政治 安全保障

ヤバすぎる日本の海底ケーブル 台湾有事でネット接続全滅リスク

「海底ケーブル」に迫る危機 日本の国際通信を担う生命線=山崎文明

 現在、インターネットを含む国際通信の約99%は、海底ケーブルを使って行われており、通信衛星による国際通信は1%にも満たない。クラウドサービスの多くの情報基盤を、海底ケーブルでつながる米国に依存している日本は、海底ケーブルの切断によって、甚大な損害を被ることは間違いない。

 SNS(交流サイト)のツイッターやインスタグラム、動画サイトのユーチューブは、海底ケーブルを使って米国のデータセンターとつながり国内にサービスを提供している。また、従来の国際電話や、国際間でドルをはじめとした資金決済に用いられるSWIFT(国際銀行間通信協会)のネットワーク、航空券の予約システムも海底ケーブルを使う。そうしたなか、台湾有事が起きた際に、日本から海外に延びている複数の海底ケーブルが切断される事態が懸念されている。

 中国が台湾に侵攻する可能性は、年々高まっていると言われる。2024年の台湾総統選で、蔡英文か台湾独立派の人物が優位に立つということが分かった時点で、中国が台湾に侵攻するのではないかとの見方もある。

 21年8月31日、台湾の国防部(日本の防衛省に相当)は、中国の軍事力に関する年次報告書を、国会にあたる立法院に提出している。同報告書には南西諸島や台湾を結ぶ「第1列島線」以西では、台湾の通信を遮断する能力をすでに持っていると明記されている。

あまりに脆弱な日本

 台湾有事の際、中国人民解放軍は、航空優勢と海上優勢を達成するために「情報封鎖」を仕掛けてくる可能性が高いと見られる。現代の戦争においては、インターネットの情報が行き交う「サイバー空間」で優勢を獲得することが、地域紛争において敵の介入を抑止または混乱させる重要な手段になるからだ。

 台湾をめぐり、同国側についた米国が中国と紛争になった場合、米国の同盟国である日本に対し、中国が情報封鎖を仕掛けてくる可能性が指摘されている。海底ケーブルは真っ先に標的になる。

 世界規模の戦争や地域紛争における軍事衝突では、相手国の通信の遮断は常とう手段である。かつて明治期の日本軍は、中国旅順を封鎖するために、ロシアが敷設していた海底ケーブルを切断した。第一次世界大戦が勃発すると英国は北海にあるドイツの海底ケーブルを切断した。

 近年は、13年にエジプトで海底ケーブルが何者かに切断されるという事件も起きている。海底ケーブルは沿岸部で直径約6センチ、沖合や深海部では直径約2センチ程度のもので、外装を厚くするなどしても錨(いかり)による切断や水中ドローンによる爆破で簡単に切断できる。有効な防護策がないのが実情だ。

 台湾有事に備え、人民解放軍は民間の結節点を攻撃目標とするとし、その役目を中央軍事委員会に直属する戦略支援部隊に担わせているとも言われる。台湾有事の際には、台湾と接続されている海底ケーブルだけではなく、日米の軍事介入を拒むため、あるいは社会的混乱をもたらすために、日本と米国を結ぶ海底ケーブルを狙う可能性は高いだろう。

 サイバー防衛の意識が高い英国では、海軍が同国の海底ケーブルが切断されるリスクを検証している。英海軍は、ロシアのヤンタル級諜報(ちょうほう)艦と補助潜水艦が、英国の海底ケーブルを切断できる装置を備えていると見ており、海底ケーブルを保護するための「監視船」を建造していると21年3月に発表。「マルチロール監視船(Multi-Role Ocean Surveillance Ship)」と呼ばれる沿岸警備用船舶で、乗組員は15人、データ収集用のセンサーと自律型水中ドローンが搭載される予定という。

 監視船は24年に就航予定で、英国防省によると北極圏を含む他の防衛作戦にも対応できるとしている。ベン・ウォレス英国防大臣は、「敵は私たちの重要国家インフラを脆弱(ぜいじゃく)とみなし、脅威にさらす能力を開発した。したがって、私たちの投資の一部はこれら新しい脆弱性を解消するための適切な機器を確保することに費やす」と述べている。

 英国の例で分かるように、海底ケーブルの防護対策は世界的に見ても緒についたばかりだ。

 日本の海底ケーブルの防護は、これまで民間の通信事業者に任せられている。日本政府は、国際海底ケーブルが切断された場合の影響や損害額のシミュレーションなど一切してこなかった。海底ケーブルが切断された場合、ケーブル敷設船がその修復を行う。しかし、ケーブル敷設船は、KDDIグループの「オーシャンリンク」やNTTグループの「SUBARU」などその隻数は限られている。

 加えて、ケーブルの修復には、数週間から数カ月かかるとみられる。複数箇所が切断された場合には、半年以上にも及ぶことが予想される。政府がネットワークの強靭(きょうじん)化を打ち出したとしても、現状は自衛するしかない。

 日本の海底ケーブルの脆弱性は政治家からも懸念の声が上がっている。自民党の「新国際秩序創造戦略本部」は21年に示した重要産業分野の改革案の中で、ネットワーク強靭化の一環として、国際海底ケーブル網の経済安全保障上の懸念の発生を把握・共有する体制構築の必要性を指摘した。

途絶に備えるシステムを

 海外との通信が途絶えた場合に備え、システムの設計にあたっては、「モラトリアム」が適用される業務範囲と、そうではない業務範囲とを区別し、可能な限り日常生活に影響を及ぼさない考慮が重要である。モラトリアムとは、非常事態に際して政府が法令によって銀行預金を含む全ての債務の支払いを一時猶予することである。日本では過去に、1923年の関東大震災や27年の金融恐慌が発生したときに発動されている。

 コンビニやスーパーでの買い物のように、日常の決済にモラトリアムは通用しない。ATM(現金自動受払機)や電子マネーなどに影響が出ない仕組みが重要である。

 また、国内通信であっても海底を通しているケースもあり、それら通信が途絶えた場合には代替経路に切り替わるが、代替経路が輻輳(ふくそう)することも予想される。今一度、自社が利用しているネットワークの通信経路の点検とシステムの切り分けが正常に行われることを確認しておく必要がある。

(山崎文明・情報安全保障研究所首席研究員)

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