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集中連載 今考える「新自由主義」 第2回 再び格差広げたフリードマンの思想とパウエル・メモ 組合を弱体化させた米国の失敗=中岡望

 戦後、保守勢力が再びニューディール・リベラリズムを攻撃し始めた。最初の標的となったのは「ワグナー法」であった。1947年に「タフト・ハートリー法」が成立する。改正の狙いは、労働者の組合への参加を阻止することにあった。

 具体的には、組合員のみを雇用するクローズド・ショップ制を非合法化する「労働権法」の規定が盛り込まれたことだ。それにより組合の弱体化が進められた。現在、労働権法を可決している州は27州に達している。そうした州での組合活動は大幅に制限されている。企業も労働権法が成立している南部の州へ工場を移転し始めた。こうした州の企業の多くは組合がなく、労働賃金も安かった。

 1970年代に企業経営者の意識を変える大きな変化が現れた。ニューディール・リベラリズムの圧倒的な影響の下で経営者は萎縮していた。また冷戦のため経営者は労働組合を無視できなかった。

株主と経営者だけがステークホールダー

 だが、そうした雰囲気を劇的に変える事態が起こった。1970年9月13日にノーベル経済学賞受賞者で保守派の経済学者ミルトン・フリードマン教授が『ニューヨーク・タイムズ』に長文の記事を寄稿した。

 フリードマン教授は寄稿文に「企業の社会的責任は利潤を増やすことである」という題を付け、編集者はそれに「フリードマン・ドクトリン」という見出しを付け足した。フリードマン教授は、経営者の社会的責任とは「社会的な基本ルールに沿って、可能な限り利益を上げたいという株主の願望に沿って経営を行うべきだ」と主張。現代風にいえば、「企業は株主のもの」であり、「株主価値の最大化」こそ、経営者が果たさなければならない“社会的責任”であると説いたのである。

 労働組合の要求に応じて賃上げを受け入れ、企業利益を減らすことは、経営者の社会的責任に反することになる。「フリードマン・ドクトリン」が次第に企業経営者に浸透し、米国のコーポレート・ガバナンスが大きく変貌を遂げることになる。それまで労働者は企業のステークホールダー(利害関係者)とみなされていたが、やがて株主と経営者だけがステークホールダーとみなされるようになる。

経済学者フリードマンの思想は米国の経営者に大きな影響を与えた
経済学者フリードマンの思想は米国の経営者に大きな影響を与えた

最高裁の「反労働組合的な判決」リードしたパウエル

 さらに経営者の意識を変えたのが秘密文書「パウエル・メモ」である。弁護士のルイス・パウエルが米商業会議所の依頼で1971年8月23日に作成したメモである。「パウエル・メモ」の表題は「企業による民主主義支配の青写真」である。

 パウエルは「米国の経済制度が(リベラル派や共産主義者から)広範な攻撃を仕掛けられている」と指摘する。だが米国企業の対応は融和的で断固として経済システムを守ろうとするものではなかった。攻撃に立ち向かうには、政治力の獲得が必要だと説く。

 そして「政治力は決意をもって積極的に行使すべきだ」と主張する。ニューディール・リベラリズムを克服するために企業は協力して立ち向かう必要性を訴えた。経営者団体は積極的なロビー活動を通して立法に影響を及ぼし、共和党と手を組んでニューディ―ル連合への攻撃を始めた。

 「フリードマン・ドクトリン」が米国企業に対する「経済的マニフェスト」とすれば、「パウエル・メモ」は米国企業に対する「政治的マニフェスト」であった。フリードマン・ドクトリンとパウエル・メモは保守派の共通メッセージとなり、1981年のレーガン政権誕生への布石となる。ちなみにパウエルはニクソン大統領によって最高裁判事に指名された。最高裁は反労働組合的な判決を出すことになるが、そうした判決をリードしたのはパウエルであった。

コーポレート・ガバナンスの変化が報酬格差を生む

 コーポレート・ガバナンスの変化によって経営者は労働者を無視し始める。経営者は賃金を抑制する一方で、株式配当を増やし、経営陣の報酬を引き上げていった。経営者は金銭による報酬以外に巨額のストック・オプションを得て、報酬は急激に増加し始める。

 1978年から2020年の間の経営者の報酬は1,322.2%、すなわち13倍以上増えている。この間、労働者の賃金上昇率はわずか18%に過ぎなかった。新型コロナで大量の失業者が出た2019年から2020年の間の不況期にあっても経営者の報酬は18.9%増加している。

 経営者と従業員の所得格差は、1965年は20対1であったが、2000年には366対1にまで拡大している(”CEO pay has skyrocketed 1,322% since 1978”, Economic Policy Institute, 2021年8月10日)。ネオリベラリズムは経営者を傲慢にし、古典的リベラリズムの世界を再現させた。

 経営者の報酬が急激に上昇するにつれて、貧富の格差も拡大し始めた。1979年から2020年の期間に上位1%の所得は179.3%、上位0.1%は389.1%増えているが、低位90%の層の増加率はわずか28.2%に留まっている。

 2020年の所得上位1%の層の年収増加率は7.3%。上位0.1%は9.9%であった。だが低位90%の層の収入の増加率は1.7%に留まっている。低位90%の人々の2020年の平均年収は約4万ドルであったが、上位0.1%の所得は約321万ドル、上位1%の層では約82万ドルであった。低位90%が占める所得比率は最低を記録している(”Wage inequality continued to increase in2020”, Economic Policy Institute, 2021年12月13日)。

後に最高裁判事となる弁護士パウエル氏のメモがネオリベラリスムに加担した(米最高裁)
後に最高裁判事となる弁護士パウエル氏のメモがネオリベラリスムに加担した(米最高裁)

ネオリベラリズムに基づく「レーガン革命」は未完に終わった

 時代は変化していく。ニューディール政策によって力を得た労働組合は絶頂期を迎え、やがて衰退の方向に向かって進み始めた。海外の戦後復興が進むにつれ、米国経済の相対的地位は低下していく。

 米国経済は貿易赤字と財政赤字の拡大とインフレという“トリレンマ(三重苦)”に見舞われる。インフレの原因は賃上げに伴う“コスト・プッシュ”にあると、労働組合に対する批判が強まり、ケネディ大統領とニクソン大統領はインフレ抑制のために賃金凍結という非常手段を取らざるを得なくなる。

 組合も強引な賃上げとストによって次第に国民から遊離していった。労働組合幹部のスキャンダルも暴露される事態もあり、労働組合は悪者になり、社会的影響力も低下していった。

米国経済は1970年代に戦後最悪の不況に見舞われる。ニューディール政策の経済的支柱であったケインズ経済学も次第に精彩を欠くようになる。さまざまな規制と巨額の財政赤字が経済成長を阻害していると批判された。

 こうして規制緩和と自由競争を主張するネオリベラリズムが登場する舞台が整った。1980年の大統領選挙で共和党のロナルド・レーガン候補が現職のカーター大統領を破り、大統領に就任した。

 レーガン大統領は、規制緩和、競争促進、大幅減税、福祉政策削減による小さな政府の樹立などを選挙公約として掲げた。そうした主張の根底には古典派経済学の復活があった。それは「供給サイドの経済学」である。

起きなかった「トリクルダウン」

 レーガン減税には経済的側面と政治的側面があった。供給サイドの経済学には、投資こそ経済成長を促進する原動力であるという古典派的考えがあった。そのためには貯蓄を増やす必要がある。

 貯蓄を増やすには、富裕層の減税が最も効果的であると考えられた。貯蓄性向の高い富裕層の減税は貯蓄を増やすことになる。貯蓄は株式投資や事業資金に回るはずだと主張された。減税による歳入減少は成長が高まることで将来の税収増に結び付く。経済成長が高まれば、結果的に労働者の賃金も上昇する。

 これは“トリクルダウン効果”と呼ばれ、最終的には成長の果実はすべての人に行きわたると説明された。だがトリクルダウン効果は発揮されることはなかった。むしろ貧富の格差を拡大する結果をもたらした。

1981年の「経済復興税法」によって所得税の最高税率は70%から50%に引き下げられた。さらに86年にも税制改革で最高所得税率も28%にまで引き下げられた。フリードマン教授など保守派の経済学者は累進課税に反対し、低率での均一税率(flat tax rate)の適用を主張した。所得税そのものを廃止することを主張する経済学者もいた。レーガノミクスの大幅減税が貧富の格差を生む大きな要因となった。

富裕層の税負担は極めて軽い

 貧富の格差を拡大させているのは賃金上昇が鈍化しただけではない。富裕層の収入を見ると、労働所得よりも資産所得の方が圧倒的に多いことを反映している。FRBの調査では、2021年第2四半期のデータでは、上位10%の富裕層は83兆ドルの資産を持ち、株式や投資信託の88%を保有している。

 富裕層の収入の中で利子配当収入や証券の売買益が大きな比率を占めている。2020年の時点でキャピタル・ゲインなどの金融収入の税率は最高20%であるのに対して、所得税の最高税率は37%である。言い換えれば富裕層の税負担は極めて低い。多額の金融資産を持つ富裕層の資産は自然に増えて行き、金融資産を持たない低所得層との格差は永続的に拡大し続ける構造になっている。

 政治的側面でも、保守主義者は「所得税は国家による国民の富の収奪」であると主張し、大幅な減税を主張した。減税によって税収が減れば、保守派が主張する福祉予算削減にもつながり、「小さな政府」が実現できると主張した。

 だがレーガン大統領は歳入減にも拘わらず福祉予算などの歳出を削減することができず、レーガノミクスは財政赤字の拡大を招く結果となった。財政赤字をさらに膨れ上がらせたのは、共産主義との対決を主張し、軍事費を大幅に増やした結果でもある。レーガン大統領のネオリベラリズムに基づく政策は、保守派が主張するような成果を上げることができず、「未完の革命」と呼ばれた。

労働組合の組織率低下が賃金の低迷につながった
労働組合の組織率低下が賃金の低迷につながった

レーガン政権で始まった“労働組合潰し”

 レーガノミクスあるいはネオリベラリズムの狙いは、労働市場の規制緩和にあった。民主党の支持基盤である労働組合を潰すことは共和党にとって政治的な意味があった。同時に労働市場を自由化する狙いもあった。

 古典派経済学は自由競争が最適な価格と資源配分を実現することになると主張する。「財市場」と「金融市場」の自由化は着実に進んでいた。だが「労働市場」は、保守派の経済学者に言わせれば、労働組合の“寡占状況”が続いていた。米国の労働組合は産業別組合で、その中央組織AFL・CIO(米労働総同盟・産業別会議)は圧倒的な力を持っていた。ネオリベラリズムに基づく自由な労働市場を作るには、労働組合の影響力を排除する必要があった。

 レーガン大統領の就任直後に準公務員の航空管制官のストが起こった。レーガン大統領は一瞬もためらうことなく、ストに参加した管制官全員の首を切った。レーガン大統領の大胆な政策が、労働組合運動の大きな転換点になり、その後、今日に至るまで労働組合参加率は低下を続けている。

 83年の労働組合参加率は20.1%であったが、2019年には過去最低の10.3%にまで低下している。2020年は若干増えて、10.8%であった。民間部門だけみると、さらに厳しい状況である。83年に16.8%であったが、2020年には6.3%にまで低下している。経済構造の変化も組合参加率を引き下げる要因となった。

ニューディール・リベラリズムの時代は、大手産別労組が団体交渉で賃上げを勝ち取り、それが他の産業にも波及し、全体的に賃金が引き上げられていった。だがネオリベラリズムの世界では、労働組合は賃金交渉力を失い、賃金引上げよりも、雇用確保を主張するように変わっていった。労働者は分断され、実質賃金の上昇は止まってしまった。ネオリベラリズムの組合攻撃は目的を達成したのである。

民主党もニューディール政策離れ

 ニューディール・リベラリズムを支えてきたのは民主党である。だがレーガン革命以降、民主党も変質し始めた。1993年に誕生したクリントン大統領は“中道右派”政権と言われた。ネオリベラリズムは米国社会に深く浸透していた。

 ルーズベルト大統領は民主党支持者によって尊敬され続けたが、民主党の政策は次第にニューディール政策から離れていった。クリントン大統領は積極的に市場の自由化を進めた。特に金融市場の自由化には積極的であった。

 ニューディール政策の象徴である金融業務と証券業務の分離を決めた「グラス・スティーガル法」の廃止を決めたのは、クリントン大統領であった。クリントン大統領の最大の支持層は金融界であった。

 労働組合は依然として民主党お重要な支持層であったが、その影響力は極めて小さくなっていた。クリントン大統領は労働者に寄り添うよりも、金融界の利益代弁者になっていた。財政赤字削減を訴え、小さな政府を主張するなど、ネオリベラリズムの色に染まっていた。労働組合や環境団体の反対を押し切ってNAFTA(北米自由貿易協定)の批准を勧めたのもクリントン大統領であった。

「口だけ」だったオバマ大統領

民主党のオバマ大統領が誕生したとき、多くの論者はニューディール政策が蘇るのではないかと期待した。リーマン・ショックで不況に陥った経済を救済するためにオバマ大統領は「米国復興再投資法」を成立させ、不況脱出のため戦後最大の予算を組んだ。

 同時に経営危機に陥っていた金融界を潤沢な資金を投入して救済。また労働者の犠牲の上にGMを救済した。巨額の政治献金者の意向に沿う政策を行うなど富裕層に与した。オバマ大統領も在任8年間に積極的にネオリベラリズムのもたらした弊害解決に取り組むことはなかった。

 民主党の指導者は口ではルーズベルト大統領を尊敬すると言いながら、ニューディール政策の思想を引き継ぐことはなかった。ルーズベルト大統領が語った「忘れられた人々」という言葉を復活させたのは、トランプ大統領であった。

 トランプ大統領は、政治にも見放され、労働組合からも疎外されている貧困層の白人労働者を「忘れられた人々」と呼び、自らの支持基盤に変えていった。トランプ大統領は労働者のために製造業を復活させると公約したものの、最終的には何もしなかった。ネオリベラリズムが生み出した深刻な問題の解決に本気で取り組むことはなかった。

オバマ大統領は在任中、オリベラリズムの弊害を解決しようとしなかった
オバマ大統領は在任中、オリベラリズムの弊害を解決しようとしなかった

ビジネス・ラウンド・テーブルの「企業目的声明」

 皮肉なことに、ネオリベラリズムが生み出した貧富の格差がもたらす社会的分断に最初に警鐘を鳴らしたのは経済界であった。

 2019年8月19日に経営者団体のビジネス・ラウンド・テーブルが「企業目的に関する声明」を発表した。ビジネス・ラウンド・テーブルは、企業目的の再定義を行い、181名の経営者が声明に署名している。

 その中で注目されるのは、「従業員に対する投資」という項目である。そこには「従業員に対する投資は従業員に公平な報酬を提供し、重要な(社会保障などの)給付を提供することから始まる。

 投資には急速に変化する世界で活用できる新しいスキルを習得するための訓練と教育を通して従業員を支援することも含まれる」と書かれている。声明の発表に際して行われた記者会見で、JPモルガン・チェースのジェミー・ダイモン会長は「企業は労働者とコミュニティに投資している。なぜなら、それが長期的に(企業が)成功する唯一の方法だと知っているからである」と発言している。

 これは米国企業がフリードマン・ドクトリンと決別することを意味している。フリードマン教授は、労働者や社会への奉仕は企業の目的ではないと言い切っていた。だがビジネス・ラウンド・テーブルの会員の大企業は。労働者やコミュニティへの投資を経営者の責務であると語っているのである。

中産階級復興を目指すバイデン大統領の“新ニューディール政策”

 バイデン大統領はルーズベルト大統領を尊敬している。大統領執務室には5枚の肖像画が壁に掛かっている。向かって左側にはワシントン初代大統領とハミルトン初代財務長官、右側にはジェファーソン初代国務長官とリンカーン大統領である。その真ん中に一回り大きい額縁でルーズベルト大統領の肖像画が掛かっている。

バイデン大統領はネオリベラリズムで傷ついた米国社会と経済を再興するために「新ニューディール政策」を構想している。その狙いは、大規模な公共投資と労働組合の強化、中産階級の減税である。既に1兆ドル規模の「インフラ投資法」が成立している。

 また、ニューディール政策を思い起こさせる社会政策を盛り込んだ大規模な「より良い米国建設法(Build Back Better Act)」を議会に提出し、下院では成立している。だが上院では一部の民主党議員の反対で、まだ成立の見通しは立っていない。

 バイデン大統領の政策の主要な柱は、労働組合政策である。ワシントン・ポスト紙は「バイデン大統領はニューディール以来、最も労働組合寄りの大統領である」と書いている(2021年4月30日)。大統領は。米国社会を繁栄させたのは経営者ではなく、労働者であると訴えている。

 中産階級を再構築するには労働組合の復興が必要だとも考えている。バイデン大統領は2月4日のツイッターで「バイデン政権の政策は労働組合結成を推し進め、経営者に労働者が自由かつ公平に組合に参加することを認めるさせる」ことだと書いている。

 さらに4月24日の議会演説の中で「中産階級が国を作ってきた。組合が中産階級を作ってきた」と、労働組合の重要性を語っている。アマゾンで労組結成の動きがあったとき、バイデン大統領は組合結成を支持するメッセージを送っている。

資本主義に対する否定的な見方が米国民の間で強まっている
資本主義に対する否定的な見方が米国民の間で強まっている

政策を妨げる民主党進歩派と中道派の対立

 4月26日に「労働者の組織化と能力向上に関するタスクフォース」を設置する大統領令に署名している。この大統領令には「タスクフォースは労働者が組織し、経営者と団体交渉を行えるように連邦政府の政策、プログラム、経験を総動員する全力を注ぐ」と書かれている。

 さらにルーズベルト大統領が設置した「NLRC(全国労働関係委員会)」の強化を打ち出し、法令違反を犯した企業への罰則を強化する方針を明らかにしている。また労働省の労働監督部門の強化も行われる。

 ルーズベルト大統領の「ワグナー法」に匹敵する「組織権保護法(Protect the Right to Organize Act:PRO法)」が2021年2月に下院に提案され、3月に可決されている。同法には労働組合の衰退の要因となった「タフト・ハートリー法」の労働権法を見直す条項も含まれている。

 だが、多くの経営者は反労働組合の立場を変えていない。米商業会議所のスザンヌ・クラーク理事長は「PRO法は労働者のプライバシーに脅威を与え、従業員に強制的に組合費を支払わせるか、失業させることになる」と反論をしている。同法は、上院で審議されているが、共和党の反対で成立は難しいと見られている。

 ルーズベルト大統領は民主党が両院で圧倒的な多数を占めるなかでニューディール政策を実行に移すことができた。だが、現在、議会勢力で民主党と共和党が拮抗している状況で、バイデン大統領が大胆な政策を打ち出すのは難しい。

 民主党内でも進歩派と中道派の対立があり、厳しい議会運営を迫られている。現状では、バイデン構想の実現は難しいだろう。ただバイデン大統領の労働組合寄りの政策は国民の支持を得ている。

米国民の労働組合支持率は高まっている

 米国は歴史的に反共産主義、反社会主義、反労働組合の国家である。だが新しい状況が出てきている。国民の間、特に若者層の間で資本主義に対する信頼度が低下しているのである。

 米ニュースサイト「アクシオス」とコンサルティング会社「モメンティブ」が2021年7月に行った調査(Capitalism and Socialism)で「資本主義が50年前と比べて良くなっているか、悪くなっているか」という設問に対して、「良くなっている」という回答は27%、「悪くなっている」が41%と、圧倒的に資本主義に対する否定的見方が多くなっている。

 また最も特徴的なのは、格差社会の最大の犠牲者であえる若者層の間で社会主義を支持する比率が高まってきていることだ。18歳から24歳では、資本主義に否定的な回答は54%に達している。肯定的な回答は42%に留まっている。

国民の労働組合に対する支持率も着実に上昇している。ギャラップの調査(2021年9月2日)では、「労働組合支持」は68%あった。これは1965年に記録された72%以来の高水準である。こうした現象がやがて米国で大きな流れに繋がる可能性はある。

中岡 望(ジャーナリスト)

(第3回に続く)

第1回はこちら

米初期資本主義の‟超”格差社会と、ニューディール政策が生んだ「最も平等な社会」=中岡望

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