「鉄腕アトム」が30億円、未完の「詩」も商品に 急成長するNFT市場とは
ブロックチェーン(分散型台帳)とトークン(しるし、引換証)の技術をつかった先進事例では、デジタル証券のほかに、NFT(Non-Fungible Token、非代替性トークン)が注目されるようになってきた。NFTはブロックチェーン上に記録される代替不可能なデータ単位だ。これによって、画像・動画・音声などの複製可能なデジタルアイテムについて、唯一無二のオリジナルの所有権を証明することが出来る。(>>>デジタル証券 特集はこちら)
2021年12月、手塚治虫の漫画原稿を活用したデジタルアート「鉄腕アトム」が、NFTの取引市場「OpenSea(オープンシー)」で120イーサリアム(仮想通貨の単位、当時のレートで約5600万円)で落札され、日本発NFTの最高落札額として話題となった(写真)。22年2月現在は1万イーサリアム(約30億円)であれば購入可能という状況にある。
このような1点物の高額NFTコンテンツだけでなく、最近では一般の人々が自らの作品をNFTコンテンツとして販売することも徐々に増え始めており、より身近なものになりつつあるといえる。専門サイト(Nonfungible.com)のデータによると、20年のNFT取引額は約1億5900万米㌦(約182億円)だった。21年の第1~3四半期までのNFT取引額は約87億㌦(約1兆円)となっており、この数年で市場は急成長している(図)。
NFTコンテンツの売買が始まったのは17年頃からといわれている。ある程度ベースとなる技術やサービス(仮想通貨技術や電子商取引市場など)がそれなりに出来上がってきたこと、またSNS(ネット交流サービス)の広がりや、デジタルでの決済手段の多様化などが、現在のNFT市場拡大の基盤となっていると考えられる。
システム不具合を悪用
急激な市場拡大の一方で、様々な課題も顕在化しつつある。22年1月には大手NFT取引市場のバグ(不具合)が原因で、市場価格をはるかに下回る価格でNFTコンテンツが奪いとられ、直後に1億円以上の高値で転売されるといったトラブルが発生した。技術的な成熟度や市場の管理、セキュリティ面での課題が散見される。
最大の懸念点は、現時点でNFTに関する法規制が存在しないことである。アートなどのデジタルコンテンツの取引で著作権や所有権のトラブルがあった場合、現状では、現行法に基づき個別に判断していかざるを得ない。NFTの法的検討や取り扱いの留意点などのガイドラインが公開されているものの、今後の市場の本格的な拡大にともない、制度・規制面での明確なルール決めがなされていくことが期待される。
現在、高額で売買されるNFTコンテンツの大半は、ゲームやアニメ、トレーディングカードなど、すでに社会で大きな市場やコミュニティが出来上がっているものがベースになっていたり、有名人が手掛けたものなどが中心となっている。まだ買い手、つまり需要側の規模がそれほど大きくはないにもかかわらず、一部コンテンツにおいて価格が高騰傾向、少々バブル気味になっている。今後さらに有名人や有名アーティストがNFTコンテンツを手掛け、供給量および需要量が共に増えると全体として価格が落ち着いてくることになると思われる。
ピカソ絵画も未完の詩も
さらなる市場拡大の可能性を考えると「リアルコンテンツ(実物)」とNFTの融合に期待をしたい。21年7月にスイスの銀行シグナムらは、ピカソの絵画「ベレー帽の少女」の所有権を分割してNFTとして販売した。NFTという技術によってリアルコンテンツの市場流動性が高まったといえる。
最近では「詩」がNFTコンテンツとしてメタバース(ネット上の仮想空間)で展示販売されている(写真)。購入時点でその「詩」は完成しておらず、NFTによって所有権を得た購入者は、後日アップデートされる続編を受け取る権利も獲得する。「詩」は最大3年かけて完成されるとされ、アーティストとそれを楽しむユーザーとの新しいコミュニケーションの広がりが興味深い。
このような、リアルコンテンツなどの提供者(アーティスト、著作権者など)と、それを受け取るユーザーとの新しいつながり方、これまでにない新しい価値創造による市場拡大にも期待が持たれる。
(浅川秀之・日本総研首席研究員/プリンシパル)