経済・企業

迷走する東芝分割は実現の公算大でも成長できるワケ=藤田勉

“迷走”する東芝 会社2分割は実現の公算大だが多角化企業でも成長は可能=藤田勉

 東芝の経営が大きく揺れている。会計不正事件や「物言う株主」の経営介入などにより、過去9年間に東芝の社長は6人が交代した。そして、現在、東芝自ら会社分割を提案している。コングロマリット・ディスカウント(多角化企業の価値が低く評価されること)を解決するには部門売却や分割が有力な手段とされるが、多角化自体が悪いわけではなく、東芝自身の経営の問題が大きい。

 東芝の株式計23%は、「物言う株主」であるエフィッシモ・キャピタル、3Dインベストメント、ファラロン・キャピタル(チヌーク含む)が保有する。今年3月24日の臨時株主総会で3Dが株主提案を提出し、分割案に反対する意向である。ファンドにとっては、分割より非公開化の方が高い株価で売却できる場合があるためである。こうした勢いに押され、東芝は当初の会社3分割案を2分割案に変更した。

 さらに、今後2年間の株主還元を1000億円から3000億円に増額するという。臨時株主総会では、会社提案の議案は過半数の賛成で成立(普通決議)するので、承認される可能性が高い。6月の定時株主総会でも産業競争力強化法の特例措置適用が国に認められた場合、普通決議で会社提案が成立する公算が大きい。

ソニー、日立も

 ただ、大きく成長している多角化企業は珍しくなく、米アマゾンやウォルト・ディズニーのほか、日本でもソニーグループ、日立製作所、伊藤忠商事などが挙げられる。ソニーは半導体を作りながら映画や音楽も手掛ける。日立は原子力発電所を造りながら掃除機も売っている。多角化企業であっても優れた経営力があれば成長可能である。

 ソニーの吉田憲一郎会長兼社長、日立の東原敏昭会長、伊藤忠の岡藤正広会長は日本を代表する名経営者である。彼らは本流ではない時期があったが、抜てきされて今に至る。吉田社長は2005年にソニーを退職してグループ企業の社長を9年間務めた。岡藤会長は海外駐在経験がなく、キャリアの多くを大阪の繊維部門で過ごした。

 さらに傑出した最高財務責任者(CFO)が経営を支えている。ソニーの十時裕樹副社長はソニー銀行を設立し、グループ企業で吉田氏を支えた。日立の河村芳彦副社長(4月就任予定)は三菱商事出身で、日立の親子上場解消を主導。伊藤忠の鉢村剛副社長はデサントへの敵対的TOB(株式公開買い付け)や中国企業への出資など、高度なM&A(企業の合併・買収)を成功させている。

 東芝は日本産業界の宝である。いつ株を売るかもしれないファンドの圧力を受けて安易に分割するよりも、腰を据えて内部の優秀な人材を抜てきすることが望ましいとも考えられる。さらに、外部から優秀な人材を招き入れて、優れた経営チームを作ることも必要である。かつて経営危機に瀕(ひん)したソニーや日立が急回復したように、東芝の奇跡の復活も実現可能である。

(藤田勉・一橋大学大学院特任教授)

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