自民の存立基盤揺るがし始めた「1票の格差」是正の時限爆弾=人羅格
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通常国会は2022年度予算案が過去2番目に早いペースで衆院を通過、ウクライナ情勢とオミクロン禍に関心が集中している。その一方で、ひとつの時限爆弾が自民党を内側から揺さぶっている。衆院小選挙区の区割りを10増10減する、1票の格差是正問題である。
「10増10減」に不満
参院選がある年と思えぬような、淡々とした国会攻防だ。菅義偉内閣だった昨年の予算審議では、首相長男による総務省接待問題などが火を噴き、大荒れだった。
だが、岸田文雄政権下初の本予算案審議で野党の「スキャンダル」攻勢は影を潜めた。立憲民主党が野党全体を束ねる力を失い、しかも「提案路線」に転換した。国民民主党に至っては、当初予算案に賛成に回った。野党の一線を越えた対応は、緊張無き国会を象徴していた。
そんな国会と対照的に、自民党内では、衆院区割りの見直しを巡るマグマがうごめいている。次期衆院選で実施が見込まれる「10増10減」を阻止しようとする動きが表面化している。
衆院小選挙区の区割りは「アダムズ方式」と呼ばれる、人口比を反映させる計算法で見直される。昨年の衆院選でも、1票の格差は最大約2倍に拡大している。こうした状態を是正するため、16年に法改正が行われた。
一昨年に実施された国勢調査に基づくと、この方式で都道府県別の議席配分は10増10減される。「10増」は東京5、神奈川2、埼玉、千葉、愛知各1で、「10減」は宮城、福島、新潟、滋賀、和歌山、岡山、広島、山口、愛媛、長崎が各1減。たとえば、現在小選挙区が25ある東京の場合、一気に30選挙区に増える。
この方式を主導したのは、他ならぬ自公両党だ。当時はいくつかの案が検討されたが、「アダムズ」は人口が少ない県に最も有利に働く計算式だった。導入された場合「10増10減」や「12増12減」程度の区割り見直しが必要になることもわかっていた。
それが昨秋の衆院選を境に、自民党の反発が公然化した。口火を切ったのは、党内きっての選挙制度専門家で、アダムズ方式提案にも関わった細田博之衆院議長。三権の長自ら「地方の政治家を減らすだけが能ではない」と狼煙(のろし)を上げ、同調する動きが広がった。
「10増10減」の見直しも含め、衆院選挙制度の抜本見直しを求める署名を石田真敏元総務相(和歌山2区)や、加藤勝信前官房長官(岡山5区)ら有志が呼びかけたところ、同調した議員は150人を超え、同党の全衆院議員(263人)の半数を大きく上回った。「パフォーマンスかと思ったが、もはや本気で阻止に動いている」と総務省幹部はみる。
自民の反対論の背景には、減員に伴う候補調整が失敗し、保守分裂を招く警戒がある。定数減の10県は保守地盤が厚く、おおむね自民の議席占有率が高い。
定数4から1減る山口県の場合、自民は4議席を独占している。現職は岸信夫防衛相(2区)、林芳正外相(3区)、安倍晋三…
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週刊エコノミスト
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