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ウクライナ人の老科学者が日本育ちの孫に語る戦争の真実②戦禍の中でも人の思いに制限はない、ウクライナの試練から世界は生まれ変わる

左から、若い時の祖父ウラジミールさん、幼少時のボグダンさんの母、祖母(ボグダンさん提供)
左から、若い時の祖父ウラジミールさん、幼少時のボグダンさんの母、祖母(ボグダンさん提供)

日本育ちでウクライナのキエフから戦禍を伝えるボグダン・パルホメンコさんが、老科学者の祖父から戦争の真実を聞く。その第2回目。

電話番号を四つも教えてくれた知人

ウラジミールさん:

 いまは行動も物資も制限されていてなかなか思うようにできません。人にしてあげられることも少ないと思う。けれども、思うことには制限がありません。

 二日前、ポーランドとの国境近くにあるリヴィウという街に住んでいる知り合いから連絡がありました。その人は私に電話番号を四つも知らせてくれました。そして「いつでも連絡してね」と。

 実際にすぐに助けを求めるわけではありませんが、こういうことって、とてもありがたいことです。

たとえば、警報のサイレンがなると、やはり緊張します。いやなことを考えてしまうし、心が揺さぶられます。そういうときにこんなあたたかい申し出があると、すごく助けられます。

戦争下でも妻や娘に花をプレゼントしてくれた孫たち

 いまできること、ということでいえば、こんなことがありました。

 3日前は、「国際女性デー(International Women's Day)」でした。私は、例年であれば、奥さんや娘など、女性にお花をプレゼントすることにしています。でもいまはこんな状態ですから、今年は花をプレゼントするのは無理だろうなと思ってました。ところが、孫たち(ボグダン、ステファン)が花を見つけてきて、私の妻や娘にプレゼントしてくれた。

 このことを私は誇りに感じます。こんなときにも、文化をきちんとつないでくれた。

サイン入りの絵を持ってきてくれた近所の人

 こんなこともありました。

 数日前に、近所の人が絵を持ってきてくれたんです。その絵にサインがしてあって、「大好きなご近所さんへ」と書き添えてあった。私はそれを見て、とてもあたたかい気持ちになりました。

 今回の戦争が始まったとき、私は郊外の別荘にいたんですが、キエフに帰ってくる道中にも心温まることがありました。車で移動していると、バリケードや検問所を通らなくてはならないのだけど、そこの軍人さんがとてもやさしかったんです。戦争中であるにもかかわらず、愛情を感じました。

助け合いの精神は、震災時の日本と同じ

「5分待ってね。もうちょっと。それまで待ってね。そしたら出られるからね。」

 そんなふうに、彼らはとても丁寧な言葉で接してくれました。

 こういうことって、日本に大きな震災があったときにみんなが助け合うことと似ていると思います。

 これまで、私は何度も日本に行く機会があって、それがとてもよかったと思っています。日本とウクライナを比較することができるから。日本人は日本のことを誇りに思っている。ウクライナ人もウクライナを誇りに思っている。これが私たちに共通することです。

 こういうことは、私たちが前へ進んでいく(Progress)うえで、いいことがたくさんあると思います。

日本が世界と信用と信頼を築いたのは本当に良いこと

 日本が、世界との関係の中でもっている、信用や信頼。世界の中で日本がこれらを築き上げたことは、本当にいいことです。あなたたちがそれを持っていることをとてもうれしく思います。

 また、すごく大きな視点から前向きにとらえるなら、東日本大震災のときも、神戸の震災のときも、そしていまのウクライナでのことも、ひょっとしたら、古いものを一度リセットするために起きているのかもしれないとも私は思います。

 古い風習、システム。まだ機能していると私たちが思い込んでいたもの。それを壊すために。

国連やNATOの古いシステム、秩序はリセットされる

 いまの世界平和や秩序は、国連やNATOといった、いわば古いシステムによって、守られている、ように見えています。それらはおそらく、今回の危機を通じてリセットされるでしょう。

 ぼくの孫やひ孫は、みんなウクライナにいて、そのウクライナはおおきな試練を経験している。

 人生を左右する、おおきな試練です。

 いま、いろんなことがひっくり返っています。たとえば、日本が難民を大規模に受け入れるのも、きっとはじめてのことになるでしょう?

 いままでの常識が覆されている。

スイスまでも中立を放棄、世界中で新しいルールが形成

 こちらでも、戦争前にヨーロッパの他の国に出稼ぎに行っていたウクライナ人の人たちが、みんなウクライナに帰ってきて軍に加入したりしています。そうすると、軍人が増えるので、防弾チョッキやヘルメットが不足する。こういうところでも、日本をはじめ、他の国からの支援にものすごく感謝しています。スイスも、永世中立の立場でありながら、今回初めて中立せずに「ロシアのこの行動は悪い」って言った。

 このように、あたらしいルールが世界のあちこちで形成されています。

 大切なのは、愛情を持った支え合いと理解。それが、ひとりひとりのハートや知性、クリエイティブ、強さにつながるのだと思います。

(③に続く)

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