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教養・歴史 書評

地理、歴史を整理し、世界を知る。中学生から大人まで学べる入門書=評者・後藤康雄

『13歳からの地政学 カイゾクとの地球儀航海』 評者・後藤康雄

著者 田中孝幸(国際政治記者) 東洋経済新報社 1650円

地理、歴史を整理し、世界を知る 中学生から大人まで学べる入門書

 必須常識のはずなのに、慌ただしい日々の中で後回しになりがちな分野のひとつが地政学だろう。決して対岸の火事ではない現下の情勢においてすら腰が上がりにくい。本書は、経験豊富な国際政治記者による、時宜にかなった平易で体系的な入門書である。

 巨大な中国が、激しい軋轢(あつれき)を生みながらも領海を広げようとするのはなぜか。ダイヤモンド、レアメタルなど豊かな資源に恵まれるアフリカ諸国が紛争続きで貧しいままなのはなぜか。そして世界が固唾(かたず)をのむウクライナ情勢。プーチン氏が彼の地にこだわるのはなぜか。偉大なる帝国復活への執着心だけで片付けられるほど単純ではあるまい。これら重大な問いの全てによどみなく答えられる日本人がどれだけいるか。

 地政学的な事案はいずれも込み入った経緯がある。悲惨な歴史の重圧も加わり、学習には相当なパワーを要するというのが率直なところであるが、本書にそんな心配は無用である。対話による物語調のかみ砕いた記述で、タイトルの通り中学生、いや関心さえあれば小学生でも読めるだろう。そしてまた、“13歳の”ではなく“13歳からの”とされる通り、大人も十分読者となり得る。

 先の問いをはじめ、主人公たちの話題は世界をかけめぐる。例えば中国の海洋進出をもくろむ動き。歴史的経緯に目を奪われがちだが、南シナ海の数千メートルにおよぶ水深が持つ軍事的意味合いは、多くの読者の腑(ふ)に落ちると思われる。あるいはアフリカの貧困。植民地時代につながる複雑な政治・経済の体制が彼らの成長をはばんでいる状況が、丁寧かつ整然と語られ、問題の根深さがよく理解できる。

 こうした個々の事情の解説はきわめて明快で、地政学入門書としての役割をいかんなく発揮している。しかし、端々に平和への強い希求がにじむ本書が最終的に伝えたいのは、おそらくそれらの根底にある普遍原理だろう。その基本目線は、国のトップから国民一人一人に至るまで、人としてどう感じ、考えるかに据えられている。教科書はあくまで過去の事実に関する情報や解釈の整理である。現実の地政学的問題の背後にあるのは、恐怖心、反抗心、差別感情など、生身の人間の感覚であることに改めて気づかされる。

 本書の個別の内容には意見があるかもしれない。しかし、未来を考える端緒としての秀逸さに異論はなかろう。大切な人と、地球儀を前に、じっくり語り合いながら読みたい本である。

(後藤康雄・成城大学教授)


 田中孝幸(たなか・たかゆき) 大学時代にボスニア内戦を現地で研究。新聞記者となってからは、政治部、経済部、国際部、そしてモスクワ特派員など世界40カ国以上で政治、経済から文化まで幅広く取材を経験している。

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