ウクライナで中国二つの誤算 「露軍の弱さ」と「西側の結束」=平田崇浩
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ロシアのウクライナ侵攻で中国共産党政権は二つの大きな誤算に頭を抱えているのではないか。一つはロシア軍の想定外の「弱さ」。もう一つは西側諸国にかつてない結束をもたらしたことだ。
ウクライナ戦争の行方は予断を許さないが、筆者の取材した軍事専門家たちは軍事大国ロシアの通常戦力が「張り子の虎」だったと口をそろえる。陸上自衛隊OBは「プーチン(露大統領)はゼレンスキー(ウクライナ大統領)が簡単に降参すると考えていたのだろう。2、3日で終わる想定だったから補給と整備が遅れ、キエフへ向かう車列がしばらく止まった。2008年のグルジア(ジョージア)侵攻後に行った軍改革が機能していない。これでキエフ包囲戦が指揮できるのか」と指摘する。
別の陸自OBは「想像以上のロシアの苦戦とウクライナの善戦は、NATO(北大西洋条約機構)の軍事的支援が功を奏している」と分析する。米国を中心とするNATOは、ウクライナが加盟国でないことを理由に軍隊を派遣していない。ロシアとNATOの第三次世界大戦に発展するのを避けるためだが、対戦車・対空ミサイルなどをウクライナ軍に提供。これがロシア軍の地上部隊の侵攻を遅らせ、制空権の掌握を阻むウクライナ側の善戦に寄与している。
崩れた台湾侵攻モデル
短期戦で勝利をものにできなかったロシア軍は、民間人を標的にした無差別攻撃を拡大させており、「窮鼠(きゅうそ)猫を噛(か)む。生物・化学兵器や戦術核を使う恐れがある」(陸自OB)。本誌発行時点の戦況は見通せないが、専門家の見方は「キエフ包囲戦でこう着状態」「市街戦で泥沼化」など長期化によって双方の犠牲者が増える悲観論が大勢だ。ロシアが大量破壊兵器を使用する事態まで想定しなければならないのは本当に気がめいる。
仮にいずれかの時点でキエフが陥落したとしても、一方的に隣国に侵攻して虐殺を繰り広げたロシアの戦争犯罪を国際社会が許すことはないだろう。海上自衛隊OBは「ロシアがウクライナに対してやったことは、中国が検討してきた台湾侵攻モデルの一つだったはずだ。これがうまくいかなかったことで、中国は台湾作戦のいくつかのシナリオについて書き直しを迫られる」とみる。
「台湾独立勢力から同胞を解放する」と一方的に主張し軍事侵攻▽核兵器の使用をちらつかせて米国の軍事介入を阻止▽短期戦で台湾を制圧して国際社会の批判を最小限に抑え込む──。そんな権威主義国家の描く秩序破壊のシナリオに対し、米国を中心とする民主主義陣営が結束すれば対抗できるという事例をロシアの「暴挙」と「失策」が残したと言えようか。
東西冷戦の終結後、西側諸国は中国とロシアを市場経済圏に取り込むことによって、自由と民主主義を基調とする国際秩序に両国を順応させようと試みてきた。経済面のつながりが太くなれば、それを断ち切る戦争は起こしにくくなると期待したからだ。ロシアはそれを逆手に…
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週刊エコノミスト
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