国際・政治東奔政走

現実路線か強硬姿勢か 対露外交練り直しの岸田政権=及川正也

ウクライナのゼレンスキー大統領のオンラインでの国会演説が終わり、拍手する岸田文雄首相(手前右)と林芳正外相(同中央)(3月23日)
ウクライナのゼレンスキー大統領のオンラインでの国会演説が終わり、拍手する岸田文雄首相(手前右)と林芳正外相(同中央)(3月23日)

「ロシア政局だ」。そんなことばを耳にする。ウクライナへの軍事侵攻に対して与野党が批判を強める中、ロシアとどう距離を置くかで臆測が飛び交っているからだ。

「(撤退すれば)依存度が高いガス会社への供給に支障が出る可能性がある。現実的に考えていくべきだ。日本が撤退すると中国などに安く取られてしまう」

 自民党の世耕弘成参院幹事長は3月6日のNHK番組で、日本の官民出資会社が権益を持つロシア極東サハリン沖の資源開発の事業についてこう語った。欧州企業がロシアでのエネルギー事業からの撤退などを決め、継続か撤退かで日本の財界も意見が割れる中での発言だが、エネルギー安全保障を重視する立場を代弁している。

「安倍路線」からの脱却

 一方、自民党の佐藤正久外交部会長は3月23日の党会合で「日本外交が損得で動くと思われては、間違いなくロシアに足元を見られる」と強調した。

 ロシアが日本に平和条約交渉を一方的に打ち切ると通告した直後だけに、「なめられたものだ」と述べ、「逆に日本の方から『戦争犯罪を行っているプーチン政権とは平和条約交渉なんかできない』と言ってもよかった」とロシアへの非難を強め、ロシアが生物・化学兵器を使用する可能性があるとして「更なる制裁」を求めた。

 岸田文雄首相は、ロシアの平和条約交渉の打ち切りについて、経済制裁を受けた責任を日本に転嫁するもので「極めて不当で断じて受け入れることはできない」と批判する一方、経済協力については「エネルギー安全保障や日本企業への情報提供支援」などを理由に「すぐに修正することはできない」と当面は継続する考えを示した。

 経済重視の現実路線か、外交・軍事での強硬路線か──。自民党内での綱引きは激しくなっているが、岸田政権のスタンスは「中立的」(自民党関係者)と映る周辺からは「従来の対露政策を継続するのは困難だ。地政学的な急変からも、いずれ練り直す必要がある。そのときは『脱安倍路線』になる」という声が漏れる。

「安倍路線」とは何か。安倍晋三政権が2013年に策定した国家安全保障戦略では「ロシアとの間では安全保障及びエネルギー分野をはじめとするあらゆる分野で協力を進める」と明記した。その背景には、北方領土交渉を通じてロシアとの関係を前進させ、台頭著しい中国に対抗するためのテコとする狙いがあった。

 14年のロシアのウクライナ・クリミア編入で交渉は中断したが、16年に「8項目の経済協力プラン」を軸とする「新しいアプローチ」を提起して再起動させた。さらに18年には歯舞・色丹の2島引き渡しを明記した1956年の日ソ共同宣言に立ち返って交渉したものの、結局は頓挫した。この間、米国の対応も冷ややかだった。

 ロシアから見れば米国の脅威が増大することへの警戒が強かった。交渉関係者によると、ロシア側は返還後に在日米軍が北方領土に駐留しないよう求めた。日本側は「法的にはあり得…

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