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ステランティスがEV19車種で日本市場に攻勢、「宝石箱」イメージの仏コンパクトSUV試乗で感じた完成度の高さと充電インフラの課題

DS3クロスバックE-TENSEは、コンパクトサイズの電動SUV
DS3クロスバックE-TENSEは、コンパクトサイズの電動SUV

 プジョー、フィアットなどの有名ブランドを有する世界4位の自動車メーカー、ステランティスが日本市場において電気自動車(EV)の攻勢に出ている。年内にEVとプラグインハイブリッド(PHEV)の投入車種を現在の10車種(EV4車種、PHEV6車種)から、19車種(EV6車種、PHEV13車種)に増やす予定だ。

仏伊米の14有名ブランドが集結

 ステランティスは昨年1月16日、フランスのグループPSAとイタリアのフィアット・クライスラー・オートモービル(FCA)が合併して誕生した。傘下には、仏プジョー、シトロエン、DSオートモービル、伊フィアット、アルファロメオ、マセラッティ、米ジープ、クライスラーなど計14ブランドを有する。本国での合併を受け、日本法人も従来のグループPSAジャパン、FCAジャパンが合併し、この3月から「ステランティスジャパン」として、活動を開始した。

日本法人社長「電動化で先頭」を自負

 日本法人のポンタス・ヘグストロム代表取締社長CEOによると、「ステランティスの強みは人とブランドのダイバーシティ(多様性)。電動化でも先頭を走っている」という。

 週刊エコノミストでは、インターネットやAI(人工知能)との親和性の高さ、産業のすそ野の広さから、EVを最重要の取材テーマの一つとして認識している。そのため、各社の最新EVに試乗し、完成度を検証している。今回は、ステランティスジャパンから、DSオートモービルのコンパクトSUV「DS3クロスバック E-TENSE(イーテンス)」を借り、車としての基本性能のほか、日常での使い勝手を見てみた。

DS3のモーターの出力は136ps、トルクは260Nm
DS3のモーターの出力は136ps、トルクは260Nm

サイズはトヨタの小型SUVと同等

 DS3の大きさは、全長4120㎜、全幅1790㎜、全高1550㎜。日本車で言えば、トヨタの小型SUVヤリスクロス(4180㎜×1765㎜×1590㎜)と同等のサイズだ。

 駆動方式は前輪駆動。モーターの出力は、最高出力は100kW(136ps)、最大トルクは260Nm。容量50kWhのリチウムイオン電池を搭載し、満充電時の走行距離はJC08モードで398kmである。価格は542万円(消費税込み)からだ。

DS3の全長は4120㎜、ホイールベースは2560㎜
DS3の全長は4120㎜、ホイールベースは2560㎜

最大の特徴はデザイン、行く先々で浴びる注目

 最大の特徴は、内外装のデザインだろう。同社では、「高級ブランドのバッグを彷彿とさせるようなデザイン」としている。確かに、押し出しの強い正面のグリルと複雑な曲面で構成された外装、また、宝石箱をイメージさせるパネルなどから成る内装からはそうした印象を受ける。試乗では、3月下旬の連休に逗子・葉山方面のレストランや喫茶店に出かけてみたが、駐車場では周囲の人からまじまじと見つめられ、注目度に少々、驚いた。充電器を拝借した日産のディーラーでは、「おしゃれな車ですね。どこの車ですか?」と社員の人から声を掛けられもした。

シトロエンの高級ブランドとして2014年に独立

 DSオートモービルは、2014年にシトロエンの高級ブランドとして分離した。その起源は、1955年のパリサロンで発表された「DS1955」に遡る。車好きの人には、空力を重視した宇宙船のようなデザインの車として知られているだろう。デザインだけでなく、油圧式のサスペンションを持ちエンジンを掛けると車高がすっと上がるなど、ユニークな機構を数多く採用し話題となった。「その精神を今も受け継いで、DSブランドは車の開発をしています」と同社のブランドマネージャーの熊崎陽子さん(3月当時、現在はフィアット担当)は説明する。

オートクチュール(高級服飾店)の技術を応用

 DSのキーワードは日本語で職人技、匠の技を意味する「サヴォア・フェール」。内装では、オートクチュール(高級服飾店)の技術を応用しているという。

 例えば、レザーシート。「一枚の皮から特殊な技術を用いて、ミシンで作製。ステッチがたくさんが入っていますが、座り心地が悪くならないように、開発されています」(熊崎さん)。スイッチ類には時計の文字盤づくりで使われている技術が使われている。

 DS3の内装はシックだが、計器やスイッチ類は普通のエンジン車と変わらない。以前、試乗したテスラのモデル3がスピードメーターなどがなく、代わりにダッシュボードの15インチのモニターですべての操作をするのに比べると、何の違和感もない。

DS3の室内は皮素材が多用され、ダッシュボードも高級時計を思わせるデザイン
DS3の室内は皮素材が多用され、ダッシュボードも高級時計を思わせるデザイン
DS3のインパネとダッシュボードはひし形がモチーフ
DS3のインパネとダッシュボードはひし形がモチーフ

最大トルクをごく低速から発生し、ストレスフリー

 肝心の走行性能はどうなのだろうか。ダッシュボード真ん中のスタートボタンを押し、シフトレバーを「D」に入れ、アクセルを踏んでみる。テスラと同様に、音もなく進みだす。街中の走行は至って快適でストレスは無い。大容量のリチウムイオン電池を積むため、車重は1580㎏と、ガソリンモデルより300kgも重いが、電動車の常で、260Nmの最大トルクを300回転とごく低速から発生するので重さを感じさせない。むしろ、重さが重厚な乗り心地につながっている。回生ブレーキの利きが強い「B」モードにすると、アクセルのオンオフだけでブレーキも掛けられる。ただし、完全に停止するにはブレーキを踏む必要がある。

DS3の後席も白の皮張り
DS3の後席も白の皮張り

最小回転半径は5.3㍍、街中の取り回しは良好

 意外に思ったのが、思ったよりハンドルが切れることだ。タイヤのサイズは215/55R18と太いので、街中での取り回しに苦労するかと思ったが、杞憂だった。最小回転半径は5.3㍍で、目黒区や杉並区など道が狭い市街地でも、Uターンをするのに切り返しは不要だった。

 高速も問題は無い。高速安定性は欧州車のそれだ。加速したい場面ではアクセルを踏みと、その瞬間から最大トルクが発生し、足裏に連動して加速する。エンジン車ではどうしても、アクセルを踏んでから加速するまでの一瞬の間があり、それがストレスにつながるが、EVにはそれがない。EVの欠点は、独アウトバーンのような超高速走行における電力消費と航続距離だが、最高制限速度が120kmの日本では、デメリットよりメリットの方が大きい。

エンジンの音と振動なく、疲労は軽減

 高速を使い、連日、神奈川県の葉山、逗子や大磯方面まで走ったが、エンジンの音や振動がないのは、快適性に大いに貢献した。速度と車線を自動的に維持する機能も正確で、高速の緩いカーブでもハンドルに軽く手を添えておけば、車で自動的にハンドルを切ってくれる。操作はハンドルの左手奥にある独立したレバーを使うが、手先の感覚だけで車間や速度を設定でき、合理的に感じた。ちなみに、渋滞になると停止まで自動的に減速するが、停止状態から、前車に追随して再スタートする機能はない。

 車格の違いもあるのだろうが、自分の所有するガソリン車(排気量1.0㍑の小型車)に比べ、同じ経路を走っても明らかに帰宅してからの疲労が少なかった。ただ、4人でフル乗車するには、後席が多少狭く感じた。ホイールベースは2560㍉㍍とあまり長くなく、172cmの男性が前席に座ると、後席の足元はこぶし1個半くらいのスペースしかない。また、後席の窓の形状はデザイン優先で、前側が絞られており、多少圧迫感がある。後席も高級素材がふんだんに使われており、決して、居心地は悪くないが、あくまでも運転席優先のパーソナルカーの位置づけだろう。トランクの容量も、小型のスーツケースなら二つ+αが入る程度で、少人数での小旅行が前提だ。

DS3の後席は前席に172㎝の人間が乗り、足元の余裕は1こぶし半
DS3の後席は前席に172㎝の人間が乗り、足元の余裕は1こぶし半
DS3のトランクは小型のスーツケースが2個+αの大きさ
DS3のトランクは小型のスーツケースが2個+αの大きさ

満充電の航続距離は290km、30分の急速充電で90~100km走行

 航続距離はカタログ上は満充電で398kmだが、実際に使ってみた感じでは、290kmほどだ。今回は連休の3日間を挟んだ計5日間で510kmほど走り、電力消費は1kwh当たり5.9kmだった。電池は50kwhの容量なので、50kmh×5.9kmでやはり295kmほどとなる。

 充電は、チャデモ規格の急速充電器と家庭用の普通充電器に対応している。高速のパーキングエリア(PA)や日産、三菱のディーラーに設置されてある急速充電器で30分充電すると、大体、航続距離が90~100km回復した。しかし、並んで6台の充電器が設置されている首都高湾岸線の大黒PAで充電したところ、30分でなぜか44㌔分しか回復しなかった。複数台が同時に充電されていたので、その分、1台当たりの充電量が減ってしまったのだろうか。

急速充電30分で90~100km走れる(DS3)
急速充電30分で90~100km走れる(DS3)

最大の弱点はやはり充電

 この充電がやはり、現段階でEVの最大の弱点だと感じた。中央道の石川PA、圏央道の厚木PAのように、急速充電器が1台しかないPAも多かった。先に1台が充電していると、「待ち時間30分+充電時間30分=1時間」が必要となってしまう。しかも、充電器はかなり老朽化が進み、液晶画面は劣化し、太陽の下では、ほとんど表示が読めないところもあった。チャデモ充電器自体も、重さも大きさもあり、小柄な女性にとっては扱いづらいだろう。テスラのスマートな充電器と比べると使い勝手は雲泥の差だ。

 私からすると、これ以上、車載電池の容量を増やし、航続距離を伸ばすのはあまり意味がなく思える。重量は重くなり、価格も高くなるからだ。むしろ、一回当たりの充電時間を短くし、かつ、急速充電のインフラを増やす方がはるかに重要だ。理想を言えば、各高速のPAやSA(サービスエリア)、道の駅には、1か所4台の充電器が欲しい。

高い値段課題だが、補助金は100万円超

 値段も課題だ。レザーシートの同グレードのガソリン車(443万円)に比べると、ちょうど100万円高い。ただ、昨年度の段階では、国からの補助金が63万6000円、自治体からは東京都の場合で60万円と合計で最大123万6000円が出た。これ以外に、自宅用充電器の設置に最大15万円は必要だが、補助金を前提にするなら、EVは手が届かないものではなくなっている。自宅に充電器をセットできる環境なら、EVは次の乗り換えの対象になるかもしれない。家庭用に6kwhの充電器を設置した場合、満充電に9時間かかる。

年末までにステランティスグループの販売店の85%に充電器

 ヘグストロム社長CEOによると、ステランティスジャパンは、日本国内で六つのフランチャイズで107のパートナー企業と337か所のショールームを展開しているという。「今年の末にはディーラーの85%が、EV用の充電器を装備する」(ヘグストロム社長)。例えば、DSオートモーティブのEVを持っていても、プジョーやフィアット、ジープなどの他のステランティスグループのディーラーで充電をすることが可能になり。「どのインポーターよりも最大の充電ネットワークを持つようになる。どのブランドをもっていても、EV生活を楽しむことができる」と話す。

ステランティスは電動化を急速に進めている(左からプジョー2008とフィアット500e)
ステランティスは電動化を急速に進めている(左からプジョー2008とフィアット500e)

EVに慣れると古臭く感じるエンジン車

 DS3の試乗後、EVの完成度の高さに感銘を受け、同じステランティスグループのプジョーの店舗を訪れ、姉妹車SUV「プジョー2008」のEVとガソリン車の両方に試乗した。乗り比べると、振動や音が大きいガソリン車は古い時代の乗り物に感じてしまった。

 私のようなEVの経験者が増えるほど、純粋なエンジン車は急速に競争力を失う可能性があると強く感じた。

 ステランティスでは、「ルパン三世の車」として人気の高い小型車「フィアット500」のEVを日本国内で6月25日から発売する予定だ。海外メーカーが日本市場でEVに力を入れる中、日本メーカーは果たして対応が十分なのか。経済誌の記者として、不安を覚えたのが正直な気持ちである。(稲留正英・編集部)

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