“緊急事態”で勢いづく改憲派 ウクライナ情勢を逆手に=中田卓二
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無風の今国会を象徴するかのように、衆参両院の憲法審査会が淡々と審議を重ねている。ロシアのウクライナ侵攻を受けて緊急事態条項が焦点として急浮上。与党と日本維新の会、国民民主党の間で総論では合意ができつつある。このまま憲法改正へと進むのか。
自民、旧立憲民主、公明、旧国民民主4党による衆院調査議員団が2019年9月、欧州4カ国を歴訪した。各国の憲法と国民投票制度の実情をまとめた報告書には、ウクライナの憲法裁判所長らが、同国の憲法で定めた緊急事態への対処を、ロシアによる14年のクリミア半島併合を例に解説する場面が出てくる。
同行筋によると、団長で日本・ウクライナ友好議員連盟会長でもある森英介元法相(自民)が、当時発足したばかりのゼレンスキー政権下の同国訪問を希望したという。同国の現況は想定外だったにせよ、結果として日本国内の改憲論議に大きく影響している。
3月24日の衆院憲法審で自民の新藤義孝氏は「ウクライナの憲法では、緊急事態が布告されると、布告の廃止後に選挙し、議会が招集されるまでの間、現在の議員任期が延長される」と紹介し、感染症の大規模なまん延のほか、侵略行為のような国家有事も緊急事態の類型に含めるべきだと主張した。自民党が18年3月に公表した改憲の「条文イメージ」では、緊急事態として大地震など大規模災害だけを挙げていたが、新型コロナウイルス感染症とウクライナ情勢を踏まえて、党の案を補強した形だ。国民民主の玉木雄一郎氏も賛意を示した。
議員の任期延長で一致
自民案は、緊急事態対応として(1)国民の生命、身体、財産を保護するため内閣が法律に代わる緊急政令を制定、(2)選挙が実施できない場合に特例で国会議員の任期を延長──を規定している。
現行憲法の制定過程では、日本側が明治憲法の天皇の緊急勅令に準じた権限を内閣に持たせようとして、連合国軍総司令部(GHQ)が反対した経緯がある。公明の北側一雄氏は同日の衆院憲法審で「緊急事態だからといって憲法に白紙委任的な緊急政令制度を設けることは、国会の責任放棄につながる」と批判した。共産党の赤嶺政賢氏も「三権分立を停止させるもので容認できない」と述べた。
一方、衆院議員の任期延長は自民、公明、維新、国民民主が意義を認めている。衆院の解散中に参院は緊急集会を開くことができる(憲法第54条)が、災害などで選挙の実施が長期間困難になるような事態を現行憲法は条文上、想定していないからだ。維新の足立康史氏は「任期延長について委員の認識はおおむね一致している。憲法審として直ちに結論を取りまとめるべきだ」と促した。
では、任期延長の一点突破で憲法改正原案がすぐにまとまるかというと、ハードルは低くない。どれぐらいの期間、選挙が実施できない場合に任期延長を認めるか、延長幅はどの程度かなど詰めるべき論点はいくつもある。
3月23日の参院憲法審で…
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週刊エコノミスト
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