教養・歴史書評

書店が「ショールーム化」? 店頭で電子書籍販売実験スタート=永江朗

書店で電子書籍販売の実験スタート=永江朗

 国内の出版物販売額はここ数年ほぼ横ばいだが、それは紙の書籍・雑誌の減少を電子版が補っているから。紙の書籍・雑誌を売る書店や取次にとって、電子書籍の市場拡大とは客を電子に奪われていることを意味する。また、書店の店頭で紙の本を手に取って内容を吟味するが、購入するのは電子書籍、という客もいる。いわゆるショールーム化だ。書店・取次も販売に参画したいという声は、電子書籍が登場したときからあった。電子書籍、とりわけ電子コミックの市場拡大が著しい中、その声はますます切実になっている。

 取次大手のトーハンは電子書籍取次のメディアドゥとともに、書店の店頭で電子書籍を販売する実証実験を開始した。

 購入の流れは、①客が自分のスマホを使って書店の店頭でQRコードをスキャンし、購入店舗を登録する、②店頭の在庫から購入したい本を選び、スマホで本のバーコードをスキャンする、③メディアドゥが運営する電子書籍ストア「スマートBookストア」で購入、④自分のスマホやタブレットで読む。書店には手数料が支払われる。

 対象商品は電子書籍約30万点。4月1日から始まった実証実験スタート時の実施店舗は、八重洲ブックセンター本店とブックファーストの新宿店・中野店と、いずれも東京都内の3店舗だが、順次トーハングループ書店の多店舗にも広げていくという。

 実は同じような取り組みは10年前、2012年にも行われている。仕組みは客が書店でバウチャー券を購入して電子書籍をダウンロードするというものだった。当時はまだ電子書籍のタイトル数が少なかったこともあって、あまり広がらなかった。この10年でキャッシュレス決済が広がるなど、デジタル環境は大きく変化した。

 もっとも、客にとっては購入店舗の登録など余計な手間が必要になるわけで、それを補っても余りある魅力、ショールームとしての魅力を書店や取次がどうやってつくり出せるかが大きな鍵となるだろう。また、雑誌の誌面などを書店店頭で撮影する「デジタル万引き」抑止との兼ね合いも課題である。


 この欄は「海外出版事情」と隔週で掲載します。

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