ローマ教皇と会い「非核」アピール 広島サミットに岸田首相が意欲=及川正也
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春の大型連休を利用した岸田文雄首相の東南アジア・欧州訪問のハイライトは、5月4日のバチカンでのフランシスコ・ローマ教皇との会談だったかもしれない。
国交樹立80周年の節目の儀礼的な面会で、30分程度の意見交換だった。それでも、会談に込められたメッセージは、首相にとって重要だったに違いない。
教皇「核兵器の使用と保有は理解しがたいものだ」
首相「被爆地広島出身の総理大臣として、『核兵器のない世界』に向け、バチカンと協力したい」
両政府の発表によると、こんなやり取りが冒頭にあったという。政府関係者によれば、「会談は首相の強い希望で実現した」という。日本が議長国を務める来年の主要7カ国(G7)首脳会議(サミット)が視野にあるのは間違いないだろう。首相には「広島開催」への強い思い入れがある。
対ロシアで異なる思惑
バチカンは、1963年に聖ヨハネ23世が核兵器禁止を世界に訴えて以来、長い反核の歴史を持つ。現教皇も3年前に広島と長崎を訪問しており、協力をアピールすることで広島開催への機運を高める狙いがあったとみられる。
ただし、「広島サミット」を後押しするかは微妙だ。ロシアによるウクライナ侵攻を受けて世界に平和を希求する声が高まっているのは事実だが、プーチン露大統領が「核兵器の脅し」を繰り返していることに、米欧のG7諸国が態度を硬化させているからだ。
バイデン米政権は3月下旬、新たな核戦略の報告書で、公約にしてきた先制不使用の明記を見送った。核兵器の役割を「抑止」と「反撃」に限定せず、「攻撃」にも余地を残すことで、より実用的な核兵器の開発や配備に道を残すことになる。この結果、「非核保有国は一段と核軍縮の必要性を強調するだろうが、核保有国やその同盟国は防御態勢を強めようとして抑止力強化に傾斜するだろう」(政府関係者)という見方が強まっている。
つまり、「広島サミット」は、二度と核の惨禍を招いてはいけないという軍縮派へのメッセージにはなっても、米欧には二度と核兵器は使用しないという誤ったメッセージをロシアに送ることにならないかという疑念を生じさせる。
首相は核兵器の非人道性を何より問題視し、核廃絶に向けた思いも政治家の中では人一倍強い。2016年の当時のオバマ米大統領の広島訪問も当時外相だった岸田氏の熱意が実現に結び付いた。
「まだ決めていない」。首相は今回の外遊に先立ち周辺にこう漏らしていたというが、決断は容易ではないだろう。
というのも、核に限らず、世界の潮流が軍備拡張へと向かい始めているからだ。ある政府関係者は「79年のソ連によるアフガニスタン侵攻のときと状況が似ている」と話す。どういうことか。
70年代を通じて米ソ冷戦は「デタント」(緊張緩和)の期間にあったが、アフガン侵攻により国際的な緊張が高まり、カーター米政権は日本に防衛力増強を要請。当時の大平正芳首相は「自由…
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週刊エコノミスト
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